リトルソング

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愛理は早くに両親を亡くし、兄に育てられた。 しかし、唯一の肉親である兄も数年前のある事件で亡くし、愛理は天涯孤独となってしまった。 「もう、あれから何年経ったのかしら……兄さまに会いたいな。」 愛理は、フルーツには目もくれず、そのままカウンターに突っ伏した。 「愛理、少し食べたほうがいい。夜はまだ長い……」 愛理は、奏の心配そうな声に、ゆるゆると瞼を上げると、おもむろにフルーツの盛り合わせに手を伸ばした。 熟れたマンゴーをパクリと食べる。口内に、トロトロになった果肉の甘さが広がり、南国の香りが吹き抜けた。 「今夜は、哀悼のバラードを歌うわ。兄さまに届くように……」 「ああ。お前の祈りは、きっとお兄さんに届く……」 愛理は、奏に細い指先を伸ばした。 そんな愛理の手に指を絡め、奏は薄い唇を開く。 「愛理……俺にとって…お前が全てだ……」 「うん……」 愛理と奏は、互いの存在を確かめ合うように指先を絡めた。
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