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幸せになろう
週末、私たちは宇津木家の墓にお参りをした。
母が最後に訪れたのは、もう10年以上も前だったそうで、お墓まで住職に案内していただいた。
墓に花を手向け、線香をあげる。
手を合わせて目を閉じて、心の中で静かに父に語りかけた。
『お父さん、あなたの娘の美緒です。
できることなら生きているあなたに会いたかった、本当に会いたかった。
でも私は今、温かい家族に囲まれて幸せだから、心配しないでください。
そして、潤さんという素敵な人に巡り合いました。私は潤さんと結婚して、お父さんの分も幸せになります。
あなたの勇気と優しさを、ずっと受け継いで行きたいと思います。
事故の時、潤さんのお父さんを助けてくれてありがとう、私たちの運命は繋がり合っていたんですね。
私はあなたの、宇津木 周の娘に生まれたことを誇りに思います。
ありがとう、お父さん。』
目を開けて、隣の潤さんを見上げると、潤さんは私を見て微笑んでいた。
みんな、それぞれに父に語りかけたようだった。三上のお父さんは、また泣いていた。
「お父さん!やっと会えたんだから、もう安心してくださいね。
ここに来れば、いつでも会えるんですから!
ほら、もう笑って!お父さん!」
「美緒ちゃん、本当に潤っ」
とお父さんが言いかけると、潤さんが、
「俺でいいんだよ!美緒も!」
と、慌てて言ったので、ついつい笑ってしまった。
いつまでも泣き笑いしている、三上のお父さんは著名な建築家だなんて思えないぐらい、普通の心優しいお父さんだった。
おばあちゃんも三上のお母さんも、私達のやりとりを見てもらい泣きしていた、
小坂のお父さんは清々しい表情を浮かべ、自分の気持ちに折り合いをつけたようだった。
お母さんと亜里沙は安心した様子で笑っている。
みんなが、心穏やかに時を過ごしたこの日を、私は、生涯忘れることは無いだろう。
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