出会い

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出会い

夏の早朝、川沿いを歩くと、 少し冷んやりとして心地よい。 もう少ししたら、 じりじりと焼けるような暑さがやって来る。 私は今日も神社まで、 早朝の散歩をしている。 子どもの頃からの習慣と言えばそれまでだが、 それには大きなわけがある。 神社近くのおばあちゃん、 私は山田のおばあちゃんと呼んでいるが、 山田のおばあちゃんの家には可愛い犬がいる。 犬の名前は、ジュン。 私が名づけ親、 おばあちゃんは「いい名前だね」と笑った。 ジュンに会いに行くのが中学生の頃からの、 私の日課になっている。 ジュンは、私が拾って来た犬だった。 でも、犬嫌いの父に捨てて来るように言われ、中学生の私は泣き濡れて、途方にくれていた。 せっかく拾ってあげたのに。 私の腕の中で、嬉しそうに私の顔を見上げる、 この愛くるしい犬を どうして、もう一度捨てたり出来るだろう。 父に逆らえず、何も出来ない自分が悲しくて、ただ涙を流すしかできなかった。 そんな私を見かねて、助けてくれたのが、 山田のおばあちゃんだった。 「私が飼ってあげるよ。 だけど、私はこのとおり、足が丈夫じゃないんだよ。 たまには、散歩に来てくれるとありがたいんだけどねぇ。」 嬉しい! ありがとう、おばあちゃん。 この子を捨てなくていいんだ! 私は大喜びで、おばあちゃんに約束した。 「おばあちゃん、ありがとう。 私、出来るだけ毎日、散歩に来るから!」 おばあちゃんは、 「毎日は大変だよ。時々でいいんだよ。」 そう言ってくれた。 それでも、私は毎日会いに行く、 ジュンとおばあちゃんに。 それが、私の早朝散歩の理由だ。
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