3.evening

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 突如ジャックがハンドルを叩いた。突然のことに身体がびくっと飛び跳ねる。  「何と言うことだ…こんな幼い子にまで」  「だから幼くは」  「…お前か?」  随分低い声がする。恐る恐る見るとジャックがミラー越しにマークを睨み付けていた。「お前さんがやったのか?子どもは未来の宝だぞ!?それを、こんな…虐待だ!人間のすることじゃない!」  散々な言われように遂に抑えが効かなくなったのか、マークまで大きな声を出した。  「何なんだあんた!人を犯罪者扱いしやがって!僕がいつ悪いことをしたって言うんだ!PKフォンなんて当たり前だし、虐待?考えが古いんだよ!」  「な─貴様っ!」  大の大人が罵り合いを始めた。俺の正義の心が許さない、と言えば、押し付けがましいんだよ、と返ってきて、この小悪党が、親の顔が見てみたい、と続く。うるさいったらない。おまけにジャックが身体を捻って応戦するものだから、自動車が左右に揺れた。ちゃんと前見て、危ないじゃん!  身の危険を感じたわたしはジャックの右腕に縋り付いた。「とにかくスタンフォード大学まで行ってください!お願いします!そこに知ってる大人の人がいます!」  するとジャックはわたしの話を聞いてくれた。「本当かい?また騙されているんじゃないのかい」  「もう大丈夫です。わたしの…叔母、叔母がそこにいます。彼女が大学にいるって言ったら、その人が連れていってくれるって」言いながらマークを指差す。申し訳なくて顔も見れない。「でも、そしたら何か、ごっこ?を一緒にしようって。だから─」  「もういい。分かったよお嬢さん。怖かったろう。だがもう大丈夫だ。俺がちゃんと連れていってあげるからね」  ジャックは殊更眉尻を下げて庇護すべき者、つまりはわたしに柔らかい笑顔を作った。その後表情を厳しくすると後部座席に向かって喚く。  「やっぱりじゃないか、この悪党め!この子を送り届けたら、ふん縛って警察に突き出してやるからな!」  ようやく安定した自動車はジュニペーロ・セラ・フリーウェイを緩やかに南下した。
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