1.morning

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 「まぁそんなこと言ったって、その保険のおかげで命拾いしたんだから、結果オーライでしょ」  九楓(いちじくかえで)がそうチャットを返してきた。  目が覚めた日の夕方に、PKフォン越しにチャットで連絡をしてきてくれたのだ。  高校時代からの親友の彼女は現在、カリフォルニアの研究施設に勤務している。高校当時から抜きん出て秀才だった彼女は大学からアメリカに留学し、そのままアメリカで就職した。大戦前には彼女の両親もこちらに越してきて、今もなお実質実家暮らしをしているらしい。  そんな楓に連絡をしてくれたのは勿論アルであり、それを頼んだのはわたしだった。  「そりゃそーなんだけどさ」わたしは口を尖らせたい思いだった。「でもやっぱり、7歳相当の体になっちゃったみたいだし、助かったとはいえ複雑な気分なんだよね」  彼女と会話をするとどうしても、気分が十代の頃に戻ってしまう。もう四十も見えてきたというのに、嬉しいやら情けないやら。  「それはしょうがないよ。クローンって言ったって急速に成長させられるわけじゃないんだし、生命保険が変わってからまだ10年経ってないんだから、死んじゃったらそれくらいの年に戻っちゃうよね」楓はあっけらかんと“死んじゃったら”と返してきた。  「そーだけどさー」理屈は分かっている。命が助かっただけでも儲けものである。しかし7歳に戻ってしまったというのは、さながら双六の“振り出しに戻る”のマスを踏みつけて止まってしまったかのような、やるせなさを感じてしまうのである。  「それに、あれじゃない。7歳って言えばあの有名な小学生探偵と同じ歳じゃない?」  「…小学生探偵?」一瞬何のことかと思う。  「ほらあの、見た目は子ども、頭脳は大人が口癖の」  「いや、あれ口癖ではなかったでしょ」そこまで聞いて、わたしは苦笑する。そして同時に改めて思い知る。  「でもその名探偵がいた日本も、もう無いわけだけど」
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