3.evening

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 「ごめんね、お邪魔虫だよね私」楓が不気味なにやけ顔を晒しながら注文したコーヒーをちゅうちゅうと吸った。  「虫?…カエデさんは虫なのですか?」  マークもカップに入ったコーヒーを飲む。若干不服そうに飲む。スタバではないからか。  大学構内に設けられているカフェに来ていた。見慣れない店名だったが、学生が集まっていて若々しいエネルギーに満ちているように見える。  そんなこと言ったら、このあが一番若いと思うけど。楓がそう茶化してくるから、うるさいと自分の分の紅茶を啜った。砂糖の甘みが舌に纏わりつく。  「虫ではないよ。…いや、強ち間違いでもないか」  砂糖をこびりつかせたままわたしは口を動かした。店員が気を利かせて砂糖を入れてくれたらしいけど、残念ながらわたしは無糖の方が好みだった。こんな容姿をしているためか、コーヒーは駄目だと言われた。  「ちょっと酷くない?それどういう意味?」スタンダードな返しをしてきたかと思ったら、虫を何だと思ってるわけ、と続けてきたため、返答に困ってしまった。  マークも困惑の表情を浮かべていたから、わたしは咳払いをする。「邪魔者とか余計な人って言いたかったんだと思う」  「邪魔者…なら三番目の車輪かな」  「三番目の車輪?そんな言い方なんだ?」楓は素直に関心の声を上げている。  「ですね。除け者とか…で、カエデさんは除け者なんですか?」  「ええー?またまたー」楓がよく分からない合いの手を入れてくる。何が“またまたー”なのか。  わたしは溜め息を吐く。「楓はわたしとあなたがカップルだと思っているらしいよ」  「カップル?僕とコノアさんが?」きょとんとしたマークが確認してくる。  「もー隠さなくてもいいのにー」楓は口を尖らせながらにたつくという離れ業を見せてきた。彼女の頭の中はピンク色らしい。くねくねとした動きが同級生として全くもって気持ち悪い。  その印象を率直に口にすると楓が馬鹿笑いを上げる。「辛辣だなぁもう。それで?今日は何しに来たの?」  ようやく本題に入れるのか。わたしは甘ったるい紅茶をテーブルに置いて身を乗り出した。
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