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そして、そのままの手でテーブルの上にあるサンドイッチを掴む。さっき少し齧ってみたのだけど、これが中々に美味しいのだ。それを口に入れ、よく頬張ってから喋り出す。「ひょうはね」
「口に物入れたまま喋んないでよ。子どもか!…ああ、子どもか」
楓のその物言いに、サンドイッチが喉に詰まりそうになる。胸を叩き、どうにか飲み込む。涙目になりながら砂糖水のような紅茶を流し込んだ。
「うるさいなぁ。お昼まだだったんだからいいじゃんか」
「それとこれとは別でしょが」
まともな意見にぐうの音も出ない。
「今日スタンフォードまで来たのは、こちらにカサイCEOがいらっしゃると伺ったからなんです」
マークが楓に言った。まるでわたしなんて居ないみたいに、直前の出来事に触れもしない。
「カサイCEO?」楓は豆鉄砲を食らった鳩のような顔をした後、誰それ、とわたしに聞いてくる。
「ほら、航空機事故のあの人だよ。WPSのカサイクニアキ」
「ああー!あの!このあの元カレと同じ名前の─あ、もしかして…これ黙っといた方がよかった?」
楓が変な気を使ってくる。ホントめんどくさい。
「元カレと同じ名前だったんですか?あ、だからあの時すぐ分かったんですね」
マークまで乗っかってくる。嬉々とした表情が憎たらしい。
「え、あの時って?」楓が弾むように訊ねた。もういい歳なのに、まるで恋バナに興じる女子高生のようだ。
「さっきまでWPSに行ってたんですよ。で、そこの案内役のAIがカサイCEOの名前を出したんですけど、僕が誰なのかって聞いたら即答しましたからね」
「即答っ?やっぱりねー引き摺ってたかー」
「引き摺ってない。知り合いの名前と同じ何だから、嫌でも覚えてるでしょ」
わたしはもう気のないことを示そうと、つんとした表情を作ってサンドイッチに齧りついた。しかし、そんな演技をしていることが自分でも気になってしまう。今の今まで美味しかったはずのサンドイッチの味が分からなくなってしまった。
「いや引き摺ってるね。あんたと何年一緒にいると思ってるの。私の前で嘘なんて吐けないぞ」楓は得意気に突っ掛かってくる。
「コノアさんて、案外可愛いところあるんですね」
「あんたね─」
「あ、もしかして惚れ直した、とか?」楓がわたしの言葉を遮ってくる。
「いや、そもそも惚れてないですけどね」
その返答はそれでムカつく。
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