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あー、腹減った。ノジマはパイプ椅子の上で手配書を眺めながら腹を擦った。
リュウが去った方を見やる。そろそろ帰ってきても良いくらいじゃないか…。そう思っていると示し合わせたように藪の奥ががさがさと音を立てた。
リュウだろうか。そう思ったが確信はない。ノジマは懐に手を入れ拳銃に触れた。弾は残り少ないものの威嚇には使えるだろう。そのままの姿勢で身構える。
すると藪の中からリュウの顔が現れた。息を切らすリュウの顔を見ながら、やっぱりかと胸を撫で下ろす。だがその後ろから「わっ」と少女の声が上がった。
ノジマは虚を突かれ、眉をひそめた。
「何ぶつかってんだよ」リュウが後ろを気にしながらドーロの方へ出てくる。
「だって急に止まるか、ら─」
リュウの後ろから現れた少女はノジマに視線を合わせると警戒するように目を強張らせた。
切り揃えられた前髪にそれに縁取られるような色白な顔。真っ黒なフード付きの外套。その開いた外套の中に見える服は修行僧が着そうな白い服だった。リュウと同年のように見える。
ノジマはぼうっとしたままその様子を観察した後、自分の服装を検めた。
草臥れ、あちこち解れている薄汚れた紺の、ダブルのジャケットに、色褪せた黒いシャツ。ジャケットと同じ色の、けれど泥や埃で汚れの目立つズボン。履き潰したブーツ。そんなみすぼらしい服の上にある顔は、ぼさぼさの伸びた黒髪に整えられていない無精髭。
…これは確かに怪しいかもな。ノジマは普段、町に出るときくらいにしか見た目を気にしない。それ以外の日常はこんな格好で過ごしているのだが、それを初めて見る人には新鮮に、もとい怪しい人間に見えるのかもしれない。
「ああ、えと…」ノジマは取り繕うように立ち上がる。「…どなた?」
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