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「秋虎、顔が少し赤いよ」
「え!?そ、そうですか?」
若の綺麗な顔が、覗き込むようにして俺に近づく。
その距離は目と鼻の先。
俺の唇に、若の吐息がかかるほどだ。
きっと俺がこのままこの前に倒れれば、お互いの唇が重なって……。
「(って。いやいや、何を考えているんだ俺は!!こんな天使を汚すような考えしやがって!!阿保か!!)」
いくら若を溺愛しているからといっても、それは息子のように愛しているわけであって、決してそういうことをしたいというわけでは。
「ねぇ秋虎。今日僕が告白されてるのを見てどう思った?」
若の唐突な質問に、心臓が大きく高鳴る。
「え……どう、とは」
「どんな気持ちだったかって聞いてるんだよ」
まるで、俺の心の中を見透かしているような眼。
俺はあの時、若が告白されている現場を見てどう思った?
イライラ。ムカムカ。もやもや。言葉にするには難しい感情ばかり。
一体どう答えれば正解なんだ。
「俺は……えっとですね。あ!若に手を出すなんて百年早い!と思いました」
「あ、そう」
これは失敗した。明らかに不服そうだ。
じゃあ一体若は俺に何と言って欲しかったんだろうか?
こんな時、つくづく自分が馬鹿じゃなければと思ってくる。そしたらきっと若を怒らせることもないはずなのに……。
悔しいが。こういう時、察しのいい西國が少し羨ましくも思ってしまう。
「ねぇ秋虎。言いたいことがあるんだけど」
未だ俯いたままの若から、改まって言われた言葉に緊張感だけが漂ってくる。
「な、なんでしょうか?」
何故だろうか。不安で鼓動がどんどん早まる。聞きたくないと思ってしまう。
聞いてしまえばきっと、俺にとって最悪な事が起きるーーそんな予感がした。
「僕、好きな人が出来たから」
「……え」
そして、予感は的中した。
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