235人が本棚に入れています
本棚に追加
/31ページ
第三話 若の告白
あれから若とは、会話らしい会話をしていなかった。
勿論世話係としての仕事はこなしている。ただ、いざ俺の気持ちを若に伝えようとすると、どうしても言葉が詰まってしまうのだ。
大体なんて言っていいのか分からねぇし。言うタイミングも悩む。つうかこんなこっぱずかしい事、若に言えるわけがねぇ。またキモイとか言われるのがオチだろ。
「西國は一体何を考えてやがんだ」
肝心なところで使えねえ奴だ。
この気持ちが何なのか分かんねぇから相談してるつうのによ。なんでそれを本人に言わねぇといけねぇんだ。
「あぁあクソッ!!」
「一人で頭抱えて何をしてるんです?北条」
「く、組長!」
一体いつから見られていたのか、襖を全開に開けて柱に寄りかかっていた東田組の組長。東田桜は、四十代後半とは思わせない美貌の持ち主だ。それこそ極道の人間とは到底思えないほどに。
さらさらと絹のような黒髪、長く流れるような睫毛、妖艶に微笑む薄い唇。紺色の着物はいつも着崩されている為、細い首筋やくっきりと浮き出た鎖骨が俺達の目を奪う。
きっと見た目だけだと、男からモテる方だった人だろう。
しかし組長だけあって中身は凶暴だ。組長を怒らせれば、止めれる人は若しかいない。
だがそれでも俺達が組長についていくのは、この人が俺達を大事にしてくれるからだ。
特にこの組に居る奴等のほとんどは、家族のいない行き場を失った奴等ばかり。そんな俺達を家族として側に置いてくれる組長の為に、俺達は命を代えて守る。それだけだ。
「あ、もしかして頭皮マッサージでもしてました?残念ながら北条の髪はもう手遅れですよ?」
「組長……一応この坊主頭は自分で剃ってるんで、髪が生えてこないわけではないんです」
「え!?そうだってんですか!?てっきりもうお亡くなりになられたのかと……」
「まだ一応生きてます!!ただ俺が坊主にしてるだけです!!」
たまに……というかよく俺の頭を弄ってくるが、それでも俺達の組長。我慢だ。
「それで、どうしたんですか組長?俺に何か用事ですか?」
「あぁそれがですね。最近この辺で、どっかの組が好きかってやっているという噂が流れてましてね。その処理を北条にお願いしようかと……まぁ私が出てもいいのですが」
「いえ。組長が出るまでもありません。俺に任せてください」
「そうですか。ならお願いしますね」
もやもやイライラしている時にこういう仕事は好都合だ。殴れば気分がスッキリする。
最初のコメントを投稿しよう!