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【第114話:最下層へ】
「つまり、ヤシロが魔神なんじゃないかと」
口に出して言葉にしてみると、自分が思っていた以上にすんなりと腑に落ちた。
「ササキとシンドウの二人にも、その予想を伝えておこうか」
「そやなぁ。うちもユイナっちの話を聞いて、最終的に魔神になるのはヤシロなんじゃないかと思ってたんやけど、最初からヤシロが魔神やっちゅう話の方がしっくりくるわ」
メイシーもオレと同じように感じたのだろう。
それならあの強さも納得やわと、呟いていた。
その後一度足を止め、後ろを歩いていた二人にも、ユイナの予想を伝えてみたところ、概ね同意していた。
ただそうなると、やはり二つほど疑問が残る。
「でも、どうして光魔法が使えるのかってことやなぁ~。魔神やからとか言われたら、そういうものなんかと納得するしかないんやけどなぁ」
これは、先の話し合いの中でも出てきた疑問だけど、話し合う前から分かっていたことだし、これ以上考えても答えは出ないだろう。
問題はもう一つの疑問。
「しかし、その聖王国の暗部は、確かに『ユウマ様万歳!』って言ったんだよね?」
オレたちを襲った聖王国の暗部の者たち。黒装束の一団。
劣化魔族化とも呼べるような変化までして襲ってきたやつらが口にした名前は、ヤシロに殺され、力を奪われたユウマの名前だった。
「単に、ヤシロからユウマを介して暗部に命令していたとか、それぐらいしか思い浮かばないな……」
オレも口には出してはみたものの、どうしてそんな事をする必要があるのか、まったくわからなかった。
とりあえず、ヤシロが魔神なら、自分を信仰するように仕向けるものだと思うのだが、やはり考えても謎は深まるばかりだった。
「ん~、聖王国側にも魔神の存在を隠すという意味では、多少は意味があるのか? 今の聖王国ってあの宰相が実質的に支配しているんだろ? 宰相は召喚者のことをどこまでわかっているのかだよね」
「召喚者を利用して戦争を仕掛けるとか、前の世界の創作ものならよくある展開だが、情報が少なすぎて判断できないな」
シンドウとササキも、やはりこれ以上はわからないようだ。
しかし、ユイナのいた世界の創作物だと、そんな恐ろしい展開がよくあるのか。
それはそれで恐ろしい世界だな……。
「まぁとりあえず、ヤシロが一番魔神の可能性が高いってのは間違いないやろうし、注意してあたろう! ちゅうことでいいんちゃうか~? 今考えても、どれも推測の域をでんやろうし」
「メイシーさんの言う通りか……ボクたち、まだまだ情報が不足しているね」
結局、その後も休憩のたびに軽く議論をしてみたが、明確な答えなど出るわけもなく、下手に色々と情報を得たせいで、魔神と魔族の存在が余計に重くのしかかってくるような気がした。
◆
ササキとシンドウの二人と行動を共にするようになってから、三日が過ぎた。
威力はユイナに劣るながらも、召喚者三人による光魔法『閃光』による魔物の殲滅速度は圧倒的で、次々と階層を下っていく事ができた。
そして……オレたちは、とうとう最下層にある祭壇の間へと辿り着いた。
「やっと祭壇の間か~。光魔法で有利に攻略を進められたにしては、思ったより時間がかかったね」
シンドウはそう言っているが、オレたちがギルドで仕入れた情報からすると、かなり驚異的な短期間での攻略になる。
最下層に至っては、固い鱗に覆われた巨大な蜥蜴の魔物『アーマーリザード』や、火を纏った巨大な蛙の魔物『ファイヤートード』と言った、Bランクの魔物とも遭遇していたのだ。
それを一人の怪我人を出すことなく、あっさりと……それはもうあっさりと倒して進んできたのだから、充分、順調だったと言えるだろう。
「進は欲張りすぎだ。十分すぎるほど順調に進んだはずだ」
そう思っていたら、ササキもオレと同じような事を思っていたようだ。
「まぁとにかく、無事にここまで辿り着いて良かったね!」
「そうやな。しかし、ユイナっちらの光魔法のお陰で随分楽させてもらったわ」
「へへ♪ 少しは役に立てて良かったです! えっと……突入前に休憩するんだよね?」
祭壇の間には転移魔法陣があり、すぐに迷宮の主が待ち構える部屋へ向かう事になる。
ここまで順調に来たので、そこまで疲労は溜まっていないと思うが、やはり一度ここで休憩しておくべきだろう。
「そうだな。腹ごしらえして、身体を休め、万全の態勢で乗り込もう」
「そうだね。じゃぁ、僕たちもちょっととっておきを出しておくよ~」
これから命を懸けて迷宮の主を倒しに行くというのに、ちょっと気が弛み過ぎのような気もするが、美味しいものを食べて英気を安なう事は悪い事じゃない。
それからユイナも大放出だと、いろいろな料理を出して、皆、満足するまで美味しい料理を堪能したのだった。
◆
食事を終え、交代で見張りをしながら十分な休憩を取れた。
あとは……命を懸けて戦うだけだ!
子供の頃に山ほど読んだ冒険譚の影響で、迷宮の最下層で迷宮の主と戦うというのは、冒険者を目指す事になったきっかけでもあり、夢であった。
何度も何度も読んだ冒険譚には、迷宮を攻略するパーティーの活躍が鮮烈に描かれていた。
ちょっと……いや、だいぶん? オレが子供の頃に思い描いた迷宮攻略とはかけ離れたものだったが、それでも、まさか自分が、冒険者になってこんなにも早くに、迷宮の主に挑戦することになるとは思いもしなかった。
「お? トリスは最初から仮面をつけて挑むんだね」
突入直前に先にユイナに全属性耐性向上の魔法を全力でかけて貰う事になっていたので、オレは既に仮面を装着済みだ。
ちなみにササキとシンドウの二人は、闇魔法を使う魔族と戦う事になるのを想定していたので、呪い耐性のある魔導具をつけており、認識阻害は効いていない。
ユイナとメイシーの仮面にも同じ効果があるし、いざという時に咄嗟に通話で話ができるように、二人も既に仮面を装着済みだ。
「あぁ、最初から全力で挑むためには必要だからな。ちょっと、最後に大まかに作戦を確認しておくか?」
「そうだね。一応、やっておこう」
この休憩中に作戦は立て終わっているが、突入前にもう一度確認することにする。
「まず突入前に、全員に対してユイナの全属性耐性向上の魔法をかけて貰う」
オレはそもそもこの魔法をかけて貰わないと戦力外になってしまうので当然なのだが、出現する迷宮の主によっては、属性に特化した攻撃をしてくるものもいるらしいので、オレだけでなくパーティー全員にかけようという事になった。
「うん! 任せて! この魔法は普段から使い続けているから超得意だよ!」
シンドウとササキは、光魔法を扱うことは出来るが、あまり得意ではないという事で、この魔法は使えないらしく、二人も含めてユイナが担当する。
「頼む。それで、魔法を掛け終わったら、皆で一斉に祭壇の間に突入し、すぐさま転移魔法陣に乗る。この時、離れすぎていると別の場所へ飛ばされる可能性があるらしいから、出来るだけ固まっていよう」
「ひとりぼっちで飛ばされたらまず勝てないやろうから、お手て繋いで突入する方がええかもなぁ。いしし」
「はははは。お手て繋いでボス部屋突入って、僕たちが酒場で吟遊詩人に教えたら、ちょっとがっかりするかもね」
「はは。まぁよほど離れて魔法陣に乗ったり、遅れて突入しない限りは大丈夫みたいだから、そこまでする必要はないだろう」
しかし、まさかこんなに早くここへ辿り着くなんて……。
先に情報を集めておいて良かった。
「話を進めるぞ? それで、突入後、オレが前に出て最前列を受け持つ。そして、メイシーが適度に距離をとり、魔球ドンナーで攻撃と守りをバランスよく受け持ってもらう」
「任せとき~」
「あぁ、頼む。臨機応変に対応する必要のある一番難しいポジションだと思うが、メイシーなら大丈夫だと信じている」
「へへへ~。そう言って面と向かって言われると恥ずかしいやん。ほら、さっさと話し進めや」
「ふふ。そうだな。それで、残りの三人が後列なわけだけど、シンドウの風魔法による防御を優先しつつ、風魔法の影響を受けにくい光魔法の閃光で攻撃をしていく。その際、ユイナはオレやメイシーが負傷した時の回復役も兼ねる事になって大変だと思うが、頑張ってくれ」
「う、うん! ボク、頑張るよ!!」
「僕たちもトリスやメイシーさんの支援を頑張るよ」
「回復薬も用意しているから、準備は万全だ」
簡単な作戦のおさらいは終わった。
あとは、迷宮の主へと挑むのみ!
「それじゃぁ皆! 迷宮を攻略するぞ!!」
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