【第16話:魔物のランク】

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【第16話:魔物のランク】

 緊急依頼(クエスト)を受ける事になったオレたちは、会議室を後にして、1階の受付でリドリーさんから説明を受けていた。 「明日、参加する冒険者の数は約50名。見習いと初級冒険者を除く、この街のほとんどの冒険者が参加する事になっているわ」  ある程度予想はしていたが、やはりかなり大きな事態になっているようだ。 「ところで、その言い方だと初級冒険者で参加するのはオレたちだけなんですか?」  少し気になったので、オレたち以外に初級冒険者がいないかと聞いてみる。 「いいえ。ベテラン(・・・・)の初級冒険者なら何人か参加するわよ。ベテラン(・・・・)のね」  つまりランクは同じEランクの冒険者でも、オレたちみたいな冒険者になったばかりの者は他にいないという事のようだ。 「そうか……話の腰を折ってすまない。続けてくれ」  今回の緊急依頼(クエスト)の内容はだいたい予想した通りのものだったが、それでもその規模に驚きを隠せなかった。  討伐遠征には、冒険者が約50名。  ライアーノ家(うち)の所有している『ライアーノ騎士団』から騎士が10人と衛兵が30名。  スノア様の近衛騎士である『青の騎士団』が15名。  総勢100名を超える人が参加する事になっていた。 「す、すごい大規模な討伐遠征なんですね……」 「そうね。ユイナさんみたいに攻撃魔法が使える人がもっと沢山いたら、ここまでの人数は必要ないのだけど……」  魔法を使える者の数はそこまで少なくない。  しかし、複数属性を使える者や、第二位階の魔法を使える者となると一気にその数を減らす。  特に第二位階の魔法を使える冒険者はどの街でもやっていけるし、もっと冒険者として活躍しやすい迷宮都市などの街がいくつもあるので、高ランクを目指して活動拠点を移す者が多い。  その結果、うちのような平凡な地方都市には攻撃魔法を使える冒険者がほとんどいない事態となっていた。 「リドリーさん。オレが言うのも何だが、ユイナはこんな大きな戦いは初めてなんだ。あまりプレッシャーになるような発言は控えて欲しい」  自分が期待されているのを察したユイナが息を飲むのを感じて、一言釘をさしておく。  オレのせいで依頼に付き合わすのだ。  ユイナに背伸びをさせて、必要以上に危険な目に合わすつもりは無い。 「あ、いや。ボクは大したことは出来ないけど……みんなの役に立てるように頑張るよ」 「そうか……まぁそれでも、大規模な戦闘は初めてなんだ。無理はしない方がいい」  ユイナは勇者として召喚されて、かなり色々な訓練を受けてきたらしいが、実戦をつむ前に追放されたので、あまり魔物との戦闘はなれていない。  それはオレとユイナとの出会いからも良くわかるというものだ。 「重圧に感じたならごめんなさい。第二位階の魔法を使える人は貴重なので、つい……ね。でも、そもそもギルドマスターがユイナさんを前線に出さないと思うから、そんなプレッシャーを感じなくてもきっと大丈夫よ」 「は、はい。でも、出来るだけボクも役に立てるように頑張ります!」  とりあえず良い方向に気合いが入ったので、今日の所はユイナも大丈夫だろう。  そう思い、リドリーさんに話の続きを促す。 「それでリドリーさん。ゴブリンのコロニーのおおよその場所や数はわかってるんですか? あと、上位種や変異種の存在は?」 「それが……知っての通り討伐前の偵察が失敗に終わったから、わかっている事は少ないの。数が100匹以上いるという事と、アーチャーやソルジャーなどのDランクの上位種(ゴブリン)が確認されているって事ぐらいかしら。ただ、複数の上位種が確認されているので、恐らくゴブリンリーダーがいるのではないかという話よ」  ゴブリンとは、人を模倣した魔物の中では一番弱い魔物だ。  その大きさは10歳前後の子供と同程度とかなり小さく、武器も短く殺傷力の低いものしか持っていない個体が多い。  だから、魔物としての強さを表すランクもEとかなり低い。  この魔物のランクは、冒険者の同ランクにおける平均的な強さで倒せるだろうという目安になっており、同じランクの魔物なら正面から普通に戦えば勝てる程度の強さとされている。  つまりランクEの普通のゴブリンなら、初級冒険者であるオレやユイナでも問題ないという事になる。  ただし、1対1ならば……と言う条件が付く。  今回のような大規模な戦闘の場合は、乱戦になる事も予想されるため、最低でも一人で複数のゴブリンを相手にして負けない強さが必要になる。  だから、普通の初級冒険者はお断りというわけだ。  しかも、今回は上位種のゴブリンが確認されている。  上位種と言うのは同じゴブリンの中でも、何かの技能に秀でていたり、頑強な肉体を持って出現した個体の事だ。  中でもさきほどの話に出てきた『ゴブリンリーダー』という上位種は、Cランクの強さとされており、うちの街の冒険者や衛兵だと、複数で対応しなければ返り討ちにあう事になるだろう。  今回の討伐で確実に勝てそうなのは、騎士たちぐらいだろうか?  そう考えていて、ふと一人の冒険者の顔を思い出した。 「そう言えば、ネヴァンさんは参加するのか?」  恐らくあの人なら、たとえゴブリンリーダーが他のソルジャーなどの上位種を率いていても、勝てそうな気がする。 「それが……タイミングが悪い事に護衛依頼で王都に行ってて、まだ戻ってきていないのよ」 「それは本当にタイミングが悪いな……」  まぁ『青の騎士団』の騎士の中にも、何人かはBランクぐらいの強さを持っている人たちがいたはずなので、何とかなるか。  ちなみにうちの街の騎士たちは一番強い団長でもCランク程度の強さだ。  何人かは父さんの紹介でオレの鍛錬に付き合って貰ったことがあるが、あの模擬戦の時のネヴァンさんほどでは無かったからな。 「そうなのよね。あの人、普段は護衛依頼なんて受けないのにぃ!」  リドリーさんが少し素を見せて怒っているが、まぁ無理もないだろう。  一人でも強い冒険者を必要としている時に、この街で一番強いだろう冒険者が運悪くいないのだから。 「まぁでも、自由なのが冒険者だからな。護衛依頼を受けたい気分だったんじゃないか?」 「そうかもしれないですけど……あぁ、何か愚痴のようになってしまって、すみません。それで……」  その後、日程の話や部隊編成の話、そして報酬や特別評価などの話を聞いて、オレたちは冒険者ギルドを後にした。  その日は二人で必要な物を買い足してから宿に戻り、会話もそこそこに早めに床に就いたのだった。
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