【第23話:ゴブリンアーチャー】

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【第23話:ゴブリンアーチャー】

 ゴブリンアーチャーに向けて駆け出したオレを、周りにいたゴブリンたちがそうはさせまいと行く手を塞ぐ。  周りに何人かの青の騎士団の騎士や、衛兵も入り乱れて戦っているが、いたるところに上位種が入り込んで乱戦になっている上に、『泡沫(うたかた)の聖域』の効果が無効化され、だれもが目の前の敵で手一杯の状態だった。  周りはゴブリン()だらけ、助けは期待できない。  でも……だからと言って怯んでいるような場合じゃない! 「押し通る!!」  行く手を塞ぐゴブリンの数は10匹以上。  その中で最初に襲い掛かってきたのは3匹。  王国流剣術の居合斬りの要領で、抜身の剣で先頭の一匹を斬りあげると、後ろ足を軸に回転して、左に回り込んできた二匹目を返す剣で斬り伏せる。  続いて後ろから襲い掛かってきたゴブリンを、前方のゴブリンの残滓()に突っ込む形で躱すと、振り向きざまに強引に逆袈裟に斬り裂いた。 「ゴブリン程度(おまえら)に負けるような生半可な鍛錬はしていない!」  自らを鼓舞するようにそう叫ぶと、不意をついて放たれたゴブリンアーチャーの矢を身体を捻って躱し、再び駆け出す。 「はぁぁぁっ!!」  その後も執拗にオレの行く手を塞ぐゴブリンどもを斬り伏せ、ようやくもう少しで剣が届くところまで辿り着いたその時だった。 「トリスくん!? 危ない!!」  ユイナの叫び声が聞こえて振り向くと、オレの目に飛び込んできたのは、大柄なゴブリンが大剣を振り上げている姿だった。 「なっ!? いつの間に!?」  迫る大剣を何とか避けようと身体を捻るが……。 (間に合わない!?)  もうダメだと理解してしまったその瞬間だった。 「させないんだからぁぁ!!」  ユイナの叫び声と共に閃光がゴブリンの頭部を貫き、オレを斬り裂くはずだった大剣は靄となってオレの身体を通り抜けていった。  消えていく靄の中から転げ落ちていく瘴気核を見て、ようやく助かったのだと気付いて息を呑む。  しかし、惚けている間などあるわけもなく、心の中でユイナに感謝しつつも後ろに迫っていた別のゴブリンソルジャーの大剣を魔剣を掲げて受け流すと、 「ちっ!!」  火花を散らしながら右へと滑り落ちていく大剣を横目でみながら、今度はお返しとばかりにソルジャーの鳩尾に前蹴りを叩き込み、体勢を崩した所を回り込んで肩口から斬り倒した。 「トリスくん! 行けぇ! 背後はボクが援護するから!!」  投げかけられたその言葉を疑う事無く即座に信じ、オレは最後の距離を駆け抜ける。 「任せる!!」 「任されました!」  ユイナの言葉に頼もしさを感じながら、オレは再度放たれた矢を屈んで躱し、後ろに迫る気配をユイナに任せて、ゴブリンアーチャーに詰め寄ると、 「逃がすかぁ!」  後ろの二つの気配が弾け飛ぶのと、オレが切っ先で地面を削りながら斬り上げ、ゴブリンアーチャーを一刀両断にしたのは、ほぼ同時だった。  アーチャーが靄となって消えていくのを確認し、止めていた息を大きく吐き出す。 「かはっ!」  身体が新鮮な空気を求めて悲鳴をあげるが、今は敵陣深く斬り込んでいる。  まだ気を抜くわけにはいかなかった。  アーチャーや魔法を使うメイジは滅多に現れないと聞いていたが、これだけの数がいるのだから、まだいるかもしれない。  そう思いつつ周りを見渡した時だった。  ソルジャーを上回る、いや、オレをも上回る大きな黒い影が、こちらを見ている事に気づく。  その瞬間、オレの身体を得も知れない悪寒が走り抜けた。 「な、なんだ……」  周りにゴブリンソルジャーと思われる個体を数体従えているのはわかる。  Cランクのゴブリンリーダーなら、Dランクの上位種を複数従える事がある。  しかし、そいつの身体はそれで収まらない。説明がつかない。  さっき遠目にみかけた巨躯のゴブリンと同じ種類の個体に見えるが……体の色が違う。 「トリス!! 何を敵陣でボーっとしている! 一旦戻れ!!」  ロイスさんの呼びかけに、オレは逃げるようにその場を後にしたのだった。  ~  光魔法を解禁したユイナの援護のお陰で、オレは何とか無事に自陣に戻る事が出来ていた。 「トリス! なんて無茶をするのですか!?」  戻って第一声でスノア様に叱責されるが、 「無茶はスノア様です! 前に出過ぎなんです! それより怪我は!? 怪我は大丈夫なのですか!?」  オレが強めに言い返すと、歳相応の少女の顔で頬を膨らませます。 「怪我はユイナが治してくれましたし、自分でも治療しましたからもう完治していますー!」  語尾を少し伸ばし、少し目線を逸らせながら話す態度に、少し昔の二人の関係を重ねてしまうが、 「良かった。でも、本当に不用意な事は控えて下さい」  そう言って返事を待たずに歩き出す。  そう。歩き出したのだが……そこで、とある仮面の少女と目が合う。 「……さっきは助かった。ぽ、ポワントンがいなければ危なかった」 「うわぁぁ!? ポワントン言うなぁ!?」  この緊迫した状況の中で叫ぶから無駄に周りから注目を浴びてしまい、さらに縮こまるポワントンことユイナ。 「じゃぁ、とりあえず何て呼べばいいんだ?」 「えっと、えっと……とりあえず『仮面の冒険者』でお願いします……」  安易な名前だと思ったが、こと名前に関してはオレが何か言うと、手痛い反撃を喰らいそうなので黙っておく。 「それで、その仮面を付けているという事は、光魔法(奥の手)を使ってくれるんだな?」  仮面の隠蔽効果はユイナの容姿はもちろん、ユイナに起因する発言や魔法などの特徴もあいまいにしてくれるが、オレが発現した言葉には効果がないと聞いているので注意が必要だ。 「うん。これでボクだって認識できなくなっているはずだし、ボクに由来する装備や魔法もあいまいに感じるはずだから。でもボク、光魔法も第3位階は使えないからね」  それでも、さっきオレを助けてくれた第二位階の『閃光』などを瞬時に発動できていた。  この付近だけでも、劣勢になっている所に次々撃ち込んで貰うだけで、かなり有利に戦えるようになるだろう。 「あの発動速度は凄い武器になる。しかも、光属性(それ)は魔物への特効効果があるんだろ? 十分すぎる」  前にユイナに聞いたのだが、光魔法は同じ位階の同じような威力の攻撃魔法でも、魔物には効果が倍増するらしいのだ。  そんな会話をしていると、スノア様がこちらを不思議そうに見ているのに気づく。  それはそうだ。  今スノア様からは、ユイナは謎の少女ポワ……見知らぬ仮面の少女に感じているのだから。 「スノア様。その仮面の冒険者は信用できる仲間です。共に協力してください!」 「け、決して怪しいものではありません! ボクにも協力させてください!」  二人でそう叫ぶのだが、スノア様は一層その表情を不思議そうなものへと変える。 「どうして? どうしてそのような仮面をつけているのですか?」  確かにそう思うのが普通だよなと、なんと説明しようかと一瞬返答につまるのだが……。 「そんな仮面付けない方が、ユイナ(・・・)は可愛らしいですわよ?」 「「へ?」」  その返答に、きっとオレたち二人は揃って間抜けな顔を晒していただろう。  どうした仮面の認識阻害……。
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