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【第3話:冒険者資格認定試験】
宿に邪魔な荷物を置いたオレは、冒険者ギルドに向けて歩いていた。
場所は少し宿から離れているのだが、それでも半刻ほどでたどり着くだろう。
移動に時間がかからないのは、小さな街の数少ない利点の一つかもしれないな。
冒険者ギルドに向かう途中、慣れ親しんだ街の景色に目を向けるが、今日はなんだか新鮮に感じる。
この小さな地方都市であるライアーノは、木造の漆喰塗りの家が多い。
「たまにある石造りの家を見かけると、昔母さんと歩いた王都の街並みを思い出すなぁ……」
王都では、その建物のほとんどが頑丈な石造りだった事を思い出し、いつか冒険者として王都に行くのも悪くないなと思いを馳せる。
そんな風にいつもとは違う視点で街を眺めながら歩いていると、気付けばもう冒険者ギルドが見えるところまで歩いていた。
「とうとう冒険者としての日々が始まるんだ……」
死に物狂いで頑張った鍛錬の日々を思い出し、ちょっと泣きそうになったのは内緒だ……。
~
こんな小さな街でも、冒険者ギルドは大きな石造りの建物だ。
1階には受付と併設された酒場があり、2階には依頼の達成報告を行う窓口や打ち合わせスペース、3階には職員の事務室やギルドマスターの部屋がある。
また、ギルドの建物の裏手には広い訓練場が併設されていて、今も耳をすませば剣戟の音が聞こえてきていた。
ちなみに、なぜ入る前からこんな事を知っているかと言うと、ファイン兄さんに頼んで何度か連れて来て貰った事があるからだ。
そして、高まる胸の鼓動を感じながら、いよいよ冒険者ギルドの扉を開ける。
そこは……依頼ボードの前に数人の冒険者の姿があるだけで、閑散としていた。
「意外と空いているな……」
もう昼前と言うこともあって、かなり人が少ないようだ。
そもそも、この街の冒険者は100人もいないと聞いているので、他の街なら人でごった返す時間でも、そこまで混むようなことにはならない。
オレが過度な幻想を抱いていただけなのだ。
「すみません。冒険者資格認定試験を受けたいのですが」
受付窓口に行き、書類の整理をしている女性職員に声をかけた。
「あっ、はいはーい。ちょっと待ってくださいね~」
そう言って、切れ長の目でチラリとこちらを確認すると、手際よく手元の書類を片付けていく。
「お待たせ~。冒険者を目指してるのかな? 冒険者はかなり危険な職業だから、まずはその辺りの説明をさせて貰うわね。あっ、私の名前はリドリーよ。よろしく」
まだ20歳にもなっていないと思うが、リドリーと名乗ったその受付嬢は、慣れた様子で手際よく話を進めていく。
まぁ説明の内容自体は、魔物によって命を落とす者や怪我をして引退するものがどれぐらいいるのかなど、どれも知っている内容だったが。
「と、説明は以上なんだけど……なんかもう心は決まってるって感じね」
当たり前だ。
冒険者になるために、幼い頃から必死に頑張って来たんだからな。
「はい。それでいつ試験は受けれますか?」
オレがそう尋ねた時だった。
受付の後ろから出てきた男から声をかけられる。
「坊主さえその気なら、今からでも受けれるぜ?」
「ネヴァンさん!? 何勝手に決めてるんですか!?」
頬に傷のあるその男は、少し強面の顔で肩を竦めると、怒るリドリーさんの席まで近づいて行く。
「ケチケチすんなよ? どうせいつも俺が依頼されて試験官してんだ。今日はちょうど今暇になったとこだから、格安で受けてやるぞ?」
どうもこの人は高ランク冒険者のようだ。
冒険者認定試験の試験官は、信頼のある冒険者が受け持つって聞いたから、この人はかなりの実力者なんだろう。
でも、格安って事は金はちゃんと請求するんだな……。
~
結局、ネヴァンさんが押し切る形で奥にいた別のギルド職員の許可を貰い、オレの試験を見てくれることになった。
すぐにでも試験を受けたかったので、オレにとっては凄くありがたい話なのだが、どうして試験をしてくれることになったんだろう?
気まぐれなら構わないが、理由がわからず何か少しひっかっかった。
(まぁそれでも、すぐに受けれるんだから、ここで断るなんて選択肢はないな)
連れてこられた場所は、冒険者ギルド裏手にある訓練場。
今はパーティーと思われる5人組の冒険者が、訓練場の中央で陣形を組んで連携の練習をしているだけで、他に人の姿はない。
あまり注目を浴びるのは好きではないので、好奇の目が少ないのはありがたかった。
ネヴァンさんは、訓練場の一番奥まで歩いて行くと、倉庫のようなものの近くで立ち止まって振り返り、
「じゃぁ、坊主……トリスだったか。まずは身体能力を確認させて貰う。この訓練場をそこの荷物を背負って20周だ」
そう言って、倉庫に置いてある大きな背負子を指さした。
オレはてっきり模擬戦でもするのかと思っていたので、ちょっと意表をつかれた形になったが、冒険者になるなら体力も必要だろうと素直に指示に従う。
「これでいいですか?」
「くくくっ! お前やっぱ面白いな! 良し! そのまま20周だ!」
どうせ見てもらうならと、一番大きな重りの付いた背負子を使ったからだろうか?
オレを見て笑いを堪えている。
まぁ特に問題もないので、さっさと走り切ってしまおう。
しかし、今日はよく大きな荷物を持って走る日だな……。
~
特に問題なく20周を走り切ると、背負っていた背負子を地面に下ろしてネヴァンさんに報告する。
「終わりました……けど、これだけで良かったんですか?」
正直、ちょっと重い荷物を持って20周を走るだけだった事に拍子抜けしていた。
「いやぁ~本当に面白いな! もう十分だ! お前の背負ってた背負子は試験用じゃなくて高ランク冒険者の鍛錬用だぜ? まさか息もほとんど乱さず走り切るとは信じられねぇぜ」
「え? そうなんですか?」
そこまで重いとは思わなかったんだけど、とりあえず体力は問題なく満点で合格だと褒めて貰えたので、良しとしよう。
「じゃぁ、次は……」
それから約半刻ほど、瞬発力や反射神経、剣の基本的な扱いなど、いくつかの簡単な確認をされ、全てにおいて合格との言葉を貰う事ができた。
「いやぁ、参ったな。お前のその禍々しい剣が気になって、試験を受け持ってみたが、とんでもない逸材だな」
「……え? この魔剣、禍々しいですか?」
オレにとっては、頬ずりしたいぐらい愛おしくて仕方ないカッコイイ魔剣なのに……。
「あぁ~気に障ったんなら謝るぜ。魔剣なんて大小だいたいそういう所があるからな」
「そんなものですか? まぁオレにとっては両親から貰った大切な剣なんで、他の人に何を言われても気にはしないので大丈夫です」
「まぁ大切なのはわかるがな。でも、俺が今日声をかけたのは、実力がない奴が魔剣なんて見せびらかせていると、変な奴に目をつけられると思ったからだ。……からなんだが……それだけの実力があれば、どうやら杞憂だったようだな」
なるほど。そういう理由だったのか。
確かに魔剣は物凄く高価なものだから、下手をすれば命を狙われるような事もあるのかもしれない。
魔物と戦って死ぬならまだしも、魔剣を盗むために殺されるのはちょっと御免だ。
「言われてみれば、ちょっと迂闊でした。街中では目立たないように何か考えてみます」
そんな話をしていると、ちょうどリドリーさんが訓練場を横切ってこちらに歩いてくるのに気づいた。
「あ、もう終わったんですね。ネヴァンさん、彼はどうでした? 合格なら私もちょうど手が空いたので、初心者の心得と規約の説明をしようと思ってるんですが」
リドリーさんのその問いに、ネヴァンさんは一瞬こちらを見て、
「合格は合格なんだが……ちょっと見習いを免除にしてやろうかと思ってな。今から模擬戦をするぜ」
そう言って口元を吊り上げ、悪そうな笑みを浮かべるのだった。
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