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【第17話:護衛】
翌朝、日課の鍛錬を少し軽めで終えて食堂でユイナを待っていると、
「おはよう! やっぱりトリスくんって朝早いよね~」
ちょうどアーグル茶を飲み終わったところで、ユイナが階段を駆け下り話しかけてきた。
「まぁな。朝の鍛錬しないと、なにかその日一日気持ち悪いんだ」
「ふわぁ……ボクは元々夜型だったから朝は苦手だよぉ。そもそも、この世界の朝は早すぎなんですよ」
小さな口を手で覆い、欠伸をしながら愚痴をこぼすその姿に、昨日の動揺は見られないようだ。
一晩寝て落ち着いたのだろうその姿に、内心そっと息を吐く。
「とりあえず愚痴はまた今度な。早く朝飯を食べてすぐに出るぞ」
「はーい。しばらくここの美味しいご飯ともさよならか~。しっかり味わって食べないと」
そんな話をしていると、ちょうどバタおばさんが朝食を持ってきてくれた。
「嬉しい事を言ってくれるじゃないか。サービスしてあげたい所だけど、ユイナは小食だからねぇ」
「おばさん、じゃぁボクのかわりに、トリスくんにサービスしてあげてください」
二人の視線を受けるが反応に困る。
「ん?」
結局一瞬期待してしまってバタおばさんを見てしまうが、
「トリスにはもう増やしあげてるわよ? 食べ盛りだし、もっと欲しいのかい?」
少し恥ずかしくなって首を振って断ると、笑いながら調理場に戻っていってしまった。
オレの野菜スープ、どうりでいつも器からこぼれそうになっているわけだ……。
今度時間がある時に、ちゃんとお礼を言っておこう。
~
朝食を食べ終わったオレとユイナは、二人で東門前の広場に向かっていた。
今回の依頼で必要なものはほとんどギルドが用意してくれているが、念のためにいくつかの保存食や薬などはオレのバックパックにも入っている。
それでも普通の冒険者よりかなり荷物が少ないのは、オレたちが二人とも魔法で水を生成出来るのも要因の一つだが、ユイナのアイテムボックスの存在が大きかった。
今も途中の屋台で見つけた美味しそうなサンドイッチを、鞄に入れるふりをしてアイテムボックスに収納している。
「ユイナのそれ、本当に凄いよな……」
「へへへ~♪ これだけは本当に感謝してるな~。いつでも出来たてのご飯が食べれるし♪」
ユイナの持つ技能『アイテムボックス』は、種類が100種類までという制限はあるようだが、かなりの大きさと重さのものでも収納する事ができる。
それに100種類の制限にしても、何か袋などにまとめて入れてしまえばそれは1種類となるようなので、ほぼ制限などないようなものだ。
ただ、唯一どうしようもない制限が、魔力を自ら発するものは収納不可能であるという事だ。
人間や魔物、動物のような常に魔力を発している生き物はもちろん、オレの魔剣のような魔力を発する特殊な武具や道具も収納できないという事だった。
ちなみに、一般的に出回っている魔道具と呼ばれる道具類は、人が魔力を込めて効果を発動させるので、収納できないモノは実質ほとんどない。
あの蝶の仮面も魔力を込めて使用するこの魔道具にあたるので、その特殊な効果はともかく、普通にアイテムボックスの中に入れる事が出来ている。
「ん……? トリスくん、今なにか失礼な事考えてなかった?」
最近わかった事だが、ユイナはたまに凄く鋭い事がある。
「何も失礼な事なんか考えてないぞ? ちょっと仮面を付けた変わった女の子の事を思い出していただけだぞ?」
「なっ!? それを変な事って言うの!!」
そんなじゃれ合いをしながら向かったので、思ったより少し着くのが遅くなったが、それでも集合時間である時の鐘が鳴る前に着いたので問題ないだろう。
それに、冒険者はもうかなり集まっているが、衛兵や騎士が見当たらないので出発までにはまだまだ余裕がありそうだ。
「あっ、あそこにリドリーさんいるよ」
ユイナの指さす方に目をやると、馬車の前で積み荷のチェックをしているリドリーさんを見つける。
「リドリーさん、おはようございます」
「おはようございます!」
オレたちの声に気付いたリドリーさんは、書類を書くのを一旦やめてこちらを振り返った。
「あら。トリスさんにユイナさん、おはようございます。随分余裕をもって集まってくれたのですね」
そして、中途半端なベテランの人ほど時間にルーズなのよと軽い愚痴をこぼす。
「まぁオレたちは一番下っ端ですからね。せめて出来る事はしっかりやっておかないと。それで……オレたちの乗る馬車はどれですか?」
そう言ってオレは周りにいくつか止められている馬車に目を向けるのだが、何かリドリーさんの様子がおかしい。
「え、えっと……本当はちょうどこの馬車の予定だったんですけど……」
ユイナはよくわかっていないようで、頭の上にハテナマークを浮かべて首を傾げているが、オレは何か少し嫌な予感がしていた……。
「実は……さきほど騎士様が来られまして、『剣の隠者』の二人はスノア王女様の馬車に乗るようにと……」
やられた……。
この討伐遠征には『青の騎士団』だけを随行させるのだと思っていたが、まさか自ら騎士団を率いて帯同するとは思わなかった。
「ユイナ……すまん。依頼中ずっとスノア様と一緒にいる事になるかもしれん……」
「えっ? どうしてボクたちなんかが護衛に!? スノア様には青の騎士団が護衛についているんじゃないの?」
「普通ならそう思うよな。でも、青の騎士団はこの討伐隊で一番強力な戦力だ。たぶん青の騎士団には前線に向かうように命令して、自分にはオレたちを護衛につけて怪我人の回復などにあたるつもりなんだと思う」
他の熟練の冒険者たちと一緒に戦って勉強できる良い機会だと思っていたが、ユイナの事を考えるとこれで良かったのかもしれないと考えを改めた。
「いや……これで良かったのかもしれないな」
オレとしては少し不満が残るが、大規模戦闘に慣れていないユイナの事を考え、スノア様に心の中でそっと礼を言う。
それに、これだって重要な役目だ。文句は言うまい。
「そ、そっか。ホッとするような、逆に緊張するような……」
ユイナは昨日のあの場でも、結局最後まで緊張していたからな。
この世界に呼び出された時に聖王国の聖王などとも謁見していたようだが、その時は何が何だかわからないうちに終わったらしく、昨日の方が緊張したらしい。
「あ、二人とも。どうやらスノア王女様が参られたみたいよ。私はここでお見送りだけど、二人とも本当に気を付けるのよ」
当たり前だが、受付嬢のリドリーさんは出発準備のお手伝いで来ていただけなので、ここでお別れだ。
「あぁ、無茶はしないさ」
リドリーさんと別れた所でちょうど集合時間を告げる時の鐘が鳴った。
周りを見渡すと、うちの騎士団と衛兵の部隊も到着したようなので、少し急いだ方が良さそうだ。
そう思っていると、見た事のあるギルド職員の男が声を掛けてきた。
「おい! そこの君は冒険者だろ? 早く手続きを終わらせてくれ。名前は何という?」
オレたちがパーティー名とそれぞれの名を告げると、名前を探して書類をめくっていく。
「えぇと、『剣の隠者』のトリスとユイナと……え? あぁ、君たちが……」
職員の男は一人で何か納得すると、青の騎士団が整列している方を指し示して、言葉を続ける。
「君たちは王女様付の護衛として指名されている。向こうの青の騎士団の団長様の指示に従ってくれ。えぇと、団長様がどの方かはわかるか?」
青の騎士団の団長には、小さい時によく王国流剣術を教えて貰っていたので、
「あぁ、大丈夫だ。団長のサギリス様は知り合いだ。ありがとう」
と礼を言って、ユイナを連れてその場を後にしたのだった。
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