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「紗愛蘭さん……?」
「暁君、そんなことで悩まなくて良いんだよ。私に迷惑掛けるとか、私の目標を邪魔するとか、そんなのどうたって良いじゃない」
「え? でも、俺は紗愛蘭さんを支えるって言ったし……」
「確かにそれは嬉しかった。もちろん今後も頼りにしたいと思ってる。けどそれをするために、暁君の気持ちを押し殺してほしくない。暁君が私のしたいことを支えたいように、私も暁君のしたいことを支えたいんだよ」
全国制覇を後押ししてもらうことは、言い方は悪いが紗愛蘭にとっては“おまけ”のようなものでしかない。もっと大事なことはたくさんある。双方が幸せになれるよう、互いに助け合い、喜び合い、笑い合う。それこそが紗愛蘭の求める形だ。
「私も暁君が好き。これからもこうやって遊びに出掛けて、美味しいものとか食べて、楽しい思いをしたい。今考えるのはそういうことだけで良いの。……それで暁君は、どうしたい? どうなりたいの?」
紗愛蘭は穏やかさの中に勇壮さを秘めた瞳で訴える。暁に匹敵するほど心臓が音を立てて鳴っていたが、そんなことは気にしていられない。
「はあ……。何やってんだろ俺は……」
暁は右手で両目を覆う。自分は紗愛蘭の気持ちときちんと向き合っていなかった。勝手に想像した未来に怯えていただけなのだ。自らの愚かさに、再び涙が出てきそうになる。
それでも紗愛蘭は、自分を受け入れてくれる。“好き”だと言ってくれた。その想いに応えないなんてことが、あるのだろうか――。
「……踽々莉紗愛蘭さん」
「はい。何ですか?」
二人が目と目を合わせる。暁は一度大袈裟に唾を飲み込んだ後、改めて想いを告げる。
「好きです。俺と付き合ってください」
「……はい。喜んで。これからよろしくお願いします!」
紗愛蘭が満開の笑顔を咲かせる。繋がれた手の甲に、一片の紅葉が舞い落ちた。
See you next base……
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