2nd BASE

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「おーい椎葉、ちょっと良いか?」 「え? ああ、今行く」  友達に呼ばれ、椎葉君は素早く顔を引き締めて去っていく。それと入れ替わるように、今度は紗愛蘭ちゃんが私の元に寄ってきた。 「ねえ、今の椎葉君だよね? 同じクラスなんだ」 「そうみたい。紗愛蘭ちゃんはこれで二年連続だね」 「うん。それはともかくさ、最近椎葉君とはどうなの? 進展はあった?」  「はい? いきなり何言ってるの。別に進展することなんてないよ」 「またまたそんなこと言っちゃって。二人でお出かけとかしてないの?」  紗愛蘭ちゃんはにんまりと口角を持ち上げ、少し体を屈ませてから私の顔を覗き込んでくる。一年前は五センチほど私の身長が上回っていたが、紗愛蘭ちゃんが急成長したこともあり、その差はほぼ無くなった。 「してません。そもそも私たちは同じ高校で野球をやってるってだけで、それ以外の繋がりは無いから」  私は紗愛蘭ちゃんのおでこを掌で押し退けた。この手の質問は何故か他の人からもよくされる。別に腹が立つとかそういった気持ちになることはないが、実際に何もないことを聞かれても答えようがないので困るのだ。椎葉君と私は、野球をやっている者同士として仲が良いだけ。それなのにどうして皆、こんなにも(はや)し立ててくるのだろうか。 「ほんとかなあ。ま、この一年間じっくり観察させてもらうとしよう」 「どうぞご勝手に。何も起こらないと思いますけどね」 「はーい。とりあえず今はそういうことにしておいてあげます」  悪戯っぽく舌を出す紗愛蘭ちゃん。昔の淑やかだった彼女が恋しい。一体どこへ行ってしまったのか。もちろん今の紗愛蘭ちゃんも大好きだけれども。
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