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「あ、お邪魔してしまいましたよね。すみません……」
女の子は恐縮そうに肩を窄める。この反応を見る限り、おそらく新しく入学した一年生だろう。亀高の入学式は始業式に先んじて、昨日既に行われていた。
「新入生の子だよね。部活の見学に来たのかな? だったらこっちまできてもっと近くで見なよ」
「は、はい。ありがとうございます」
私が柔和に笑いかけると、女の子はつと立ち上がって階段を降りてくる。身長は私と遜色なく、体つきも女子にしてはがっちりしている。明らかに何かスポーツをしていたと思われる。
「もう一球スライダー行きます」
私はもう少し投球練習を続ける。女の子はその姿をまじまじと見つめ、時折愉快気に微笑を浮かべていた。
「ありがとうございました」
最後の一球を投じ、私はクールダウンに入る。今日は直球も変化球も感触が良かった。
「調子良いわね。春大から球速も上がってる気がする」
「ほんとですか? 嬉しいです」
キャッチャーを務めてくれた桐生優築さんからも褒められた。優築さんは三年生の先輩で、副主将に就いている。このチームの不動の正捕手であり、去年の夏大や先日の春大でもバッテリーを組んだ。常に沈着冷静でほとんど表情を変えることのない人ではあるものの、私たち投手陣のことを親身になって支えてくれる優しさも持ち合わせている。まさに理想の女房役と言って良い。
「あの優築さん、そこで見学してた子なんですけど、ちょっと話しても良いですか?」
「良いんじゃない。ただしシートノックの時には戻ってきてね」
「分かりました。ありがとうございます」
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