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優築さんは他の人のピッチングに付き合うらしく、グラウンドの方へと戻っていく。一方の私は優築さんにボールを渡し、女の子に声を掛けてみる。
「こんにちは。私は柳瀬真裕。二年生です」
「沓沢春歌と言います。“春の歌”と書いて春歌です」
「春歌ちゃんか。頼りがいのある名前だね」
「へ? どういうことですか?」
「ああ、ごめんごめん。こっちの話。前のキャプテンが晴香さんって言う人だったんだ」
「なるほど。そういうことですか」
小刻みに首を縦に振る春歌ちゃん。耳朶の辺りで切り揃えられたショートヘアと高めの声色が幼気な雰囲気を醸し出しているが、話し方はとても丁寧で落ち着きがある。
「ここの部活に来てるってことは、春歌ちゃんは野球に興味があるの?」
「はい。中学の頃も男子に混ざって野球部に入ってたんです。ポジションはピッチャーをやってました」
「へえ、私と一緒じゃん! 私も中学は男子の中で野球やってたんだ。私たち気が合いそうだね。えへへ」
「ふふっ、そうですね」
春歌ちゃんが白い歯を溢す。鼻筋が皺くちゃになり、中央部にある小さな黒子が潰れる。可愛らしい笑い方をする子だ。
「中学でも野球をやってたってことは、春歌ちゃんはうちに入部するつもりがあるって捉えて良いのかな?」
「当然です! 亀高に入った理由も野球がやりたかったからなので」
「おお、やったー! 新入部員一人ゲット! これからよろしくね」
「はい。こちらこそよろしくお願いします、真裕先輩」
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