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“先輩”という響きに若干の快感を抱きつつ、私は春歌ちゃんと軽い握手を交わす。春歌ちゃんの右手には無数のマメができており、彼女がこれまでたくさんの努力を積んできたのが分かる。
「でもせっかく入部を決めてるなら、今日から部活に参加してもらえば良かったね。部室にジャージとか余ってるかな……」
「あ、あの私、用具一式を持ってきてるんですけど、それで参加させてもらうことはできますか? もちろん練習着もあります!」
「そうなの!? やる気満々じゃん! そしたら一回キャプテンに聞いてみようか」
「はい」
私は春歌ちゃんを連れ、主将の元に向かう。グラウンドではバッティング練習が行われており、主将はちょうど打席に入る順番を待っている状態だった。
「あの杏玖さん、ちょっと良いですか?」
「ん? どうした?」
母の如く温かな眼差しが印象的な野球女子。彼女が私たち亀高野球部の主将、外羽杏玖さんである。
「入部希望の新入生を連れてきました。道具とかは自分で準備してきたらしいので、練習に加わってもらおうかなと」
「一年生の沓沢春歌です。よろしくお願いします」
春歌ちゃんが杏玖さんに挨拶する。こうやって何も言わなくてもすぐに自己紹介ができるところは素晴らしい。
「春歌って名前なのか。何だか呼び捨てにし辛いなあ」
杏玖さんが苦笑する。感ずるものは私と相似しているみたいだ。
「まあ良いや。道具を持ってるっていうのは、動ける服装も用意してあるってことだよね。それならぜひ参加してって。真裕、更衣室の案内頼むね」
「分かりました。行こっか、春歌ちゃん」
「はい。ありがとうございます」
許可が下り、春歌ちゃんも一緒に練習することとなった。彼女にはグラウンドから少し離れた場所にある部室でユニフォームに着替えてもらう。
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