思い出のクソ野郎

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―自分がやったと思われたらどうしようー    そんな思いがせり上がり、あわてて水洗のレバーを下げる。水は大便の横を申し訳なさそうに通り過ぎるだけで、クソはビクともしない。その姿がふてぶてしく思え、今度は足でレバーを押し下げた。水はしぶきをあげながら体当たりしていくのだが、小学生たちが相撲の力士に群がるように微動だにしない。    私は振り返り、誰もいないことを確認してトイレから抜け出し、改札を後にする。駅員が不審に思い追いかけてこないかと心配になり久しぶりに走り出した。  十分後、アパートが見え始めたころ、やっと自分が小便をしていなかったことを思い出した。
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