思い出のクソ野郎

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 二十年前のことである。  三十歳の私はコンビニでバイトをしていた。一日十時間近く働いていたが年収は三百万円程度で生きていくだけで精一杯という感じ、結婚など夢のまた夢であった。    十一時にアルバイトを終え電車に乗り最寄り駅に向かう。車両は空席も多くどんよりとした疲れをまとった中年男性たちが居眠りをしている。  駅に着くと、尿意をもよおしトイレに入った。ムワンとした濃厚な臭いが立ち込めている。私は軽い蓄膿症なのだが思わず鼻をつまみたくなるような腐敗臭だ。その臭いの元はドアが開いている大便用トイレにあるようだ。近づき中を覗き込むと、和式トイレに巨大な大便が横たわっている。テレビで観たことがあるタイの横たわる仏像のように堂々としている。つぶれたフランスパン並みの大きさだ。    動物が入ってきてやったのか。    しかし、こんなにきっちりと便器内におさめられるわけがない。周辺に小便が飛び散った跡もない。
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