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「時に楓殿は?」
光吉の問いに竹秀が茶碗を回しながら答える。
「峠を抜ける際、お召し物でも汚されたのか。湯を借りたいと申しまして……」
「さもあろう。守るには良き山城ゆえ、道中の険しさは言うに及ばぬ」
峠の上に置かれた基礎石の上に組まれた櫓は、それ自体は華奢に見えて張り巡らされたアケビの蔓で幾重にも締め上げられ見た目からは想像もできない強靭さを持ち合わせていた。
実のところは。
霧の中、魍魎を一太刀のもとに切り結んだタチの漢気を浴びせられ。股間を濡らした楓が身を清めたいと思っただけであったのだが。
「大岩を穿って通した峠道。如何な魍魎といえど容易くは破れまい」
膝を打った光吉が僅かに竹秀に身を寄せて言い置く。
「峠には兵をあたらせておく故、今宵はゆるりとお休みなされ。明日以降の事はまた明日じっくりと」
廊下を近づく人の気配に、光吉は竹秀に寄せていた身を引いて身構えた。
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