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浮かんだイメージがひどく生々しくて、俺は強く目をつぶった。
何の変哲もない無機質な冷たい箱が、キリキリと低く唸る。
「ほら。開けてみろよ」
真後ろで聞こえる低く低くこもった声。
…そこにいるのは本当に西沢か?
すっと全身が冷たい手で撫でられたように粟立った。
はじかれたように振り向くと、背後の西沢と目が合う。
笑みの貼りついた口元とは裏腹に、その目は黒いガラス玉のように無機質に俺を映していた。
喉元まで出かかった悲鳴を押し殺したけれど、そう見えたのは一瞬で。
気付くと西沢はきょとんとした顔で俺を見ていた。
「あれ。飲まねえの?」
「…いらない」
西沢の横をすり抜けると、俺はテーブルに戻った。缶にわずかに残っていたぬるいビールを流し込むけれど、いやな汗はなかなか引かない。
付けっぱなしのテレビの音も、何事もなかったような西沢の陽気な声も、全く頭に入ってこなかった。
背後の冷蔵庫の中から、嫌な視線がじっとこちらを伺っている気がしてならない。
なんなんだよ。
こいつも。この部屋も。
西沢はなにを見ているというんだろう。想像も、したくない。
どんな理由をつけて帰ろうか、俺はそればかり考えていた。
<終わり>
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