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「おじゃましまーす」
「そのへん適当に座ってー。牧野、ビール飲むよな?」
「おー。飲む飲む」
言われるまま、フローリングの床に腰を下ろす。
西沢誠とは、大学のサークルが一緒で気が合って仲良くなった。一年近い付き合いになるけれど、部屋に遊びに来たのは初めてだ。
広々としたアパートの室内には、ベッドとテレビとローテーブル。あとは洋服が雑に掛かったラック。俺と同じ、ごく普通の男子大学生の部屋だ。
その中で、真後ろの壁際に置かれた、大人の背丈ほどの冷蔵庫がふと目を引いた。
西沢はビールビールと歌うように呟きながら、灰色の冷蔵庫を軽くノックしたあと、缶ビールを二本取り出して戻ってきた。
「ほい」
「さんきゅー」
キンキンに冷えている。
申し訳程度に乾杯してプルトップを開けると、プシュッと景気のいい音が響き渡った。
「うまっ!」
口をつけた西沢が、ひと声上げてにかっと笑う。
「やっぱ、夏はビールだよなー」
「おっさんかよ」
「だって美味いからしょうがない。たんまりもらったから飲も」
バイト先の居酒屋の売上が記録更新したとかで、店長からボーナス代わりに配られたらしい。
羨ましく思いながら、俺も一気に半分ほど飲み干した。
冷えたビールは確かに美味い。
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