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 癖と言われても、俺には何も思いつかない。もしかしてあれか。顔に似合わずマニアックな性癖でもあるのか。  だったらこれ以上俺は何も突っ込めない。人は見かけによらないものだ。 「あ、もう空だ」  西沢の声で我に返った。 「牧野、まだ飲めるよな?」 「うん。全然いける」  俺もこいつも、かなり飲めるクチだ。コツコツとノックの音が響いて後ろを振り返ると、西沢が缶ビールを二本持って戻ってくるところだった。  ふと、さっきから感じていた違和感に気付く。  …なんだろう。必ず冷蔵庫をノックしている。ナツミちゃんの顔が頭をよぎった。  テレビでは相変わらず、バラエティの賑やかな声。 「あはははっ!」    司会者の、ゲストへの的確なツッコミに西沢が声を上げて笑う。  エアコンがかかっていてもこの部屋は蒸し暑くて、あっという間に350mlの缶ビールは空になる。 「すぐ飲み終わるな」 「あはは。まだあるから遠慮すんな」  そう言って腰を浮かせた西沢を、俺は引き留めた。さすがに持ってこさせるばかりじゃ悪い気がした。 「俺持ってくるわ」 「よろしくー」  俺は立ち上がると、壁際にある灰色の冷蔵庫に歩み寄った。 扉に手をかけ、ふと動きを止める。  …そういえばあのノックは西沢の癖、なのか?
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