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振り返って何気なく聞いてみる。
「なあ西沢。なんで冷蔵庫開けるときノックするんだ?」
「んー?」
僅かな沈黙。西沢は一瞬真顔で俺を見ると、へらっと笑った。
「そうしないとさ、目が合うんだよね」
「…は? 何とだよ」
西沢は答えずににやにや笑っている。
「おい、西沢」
「聞きたい?」
もったいぶるような口調に少し苛立った。構ってちゃんじゃあるまいし。
「…いい。変なこと言うなよ」
酔っぱらってんのか、こいつ。俺は冷蔵庫の扉にかけた手に力を込める。
がちゃりと音がして、細く開いた扉のすき間から、庫内の明りとひやりとした冷気が漏れだした。
「女だよ」
すぐ後ろで西沢の声がして、俺はぎくりと身を竦ませる。気配の近さに、振り返るのを躊躇した。
「黒いハリガネみたいな髪したさあ…」
「冗談やめろよ」
「冗談だと思うんなら開けてみれば」
変わらない陽気な声が、やけに背中にまとわりつく。嫌な汗が脇を流れて、蒸し暑かった部屋がすっと寒く感じた。
手をかけたままの扉の向こうから、べたりとした視線を感じる。
冷蔵庫の中に、女の顔が詰まっている。
ごわごわとした髪をして、真っ黒なガラス玉のような目を見開いて、俺を見ている。
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