5

1/1
前へ
/5ページ
次へ

5

 浮かんだイメージがひどく生々しくて、俺は強く目をつぶった。  何の変哲もない無機質な冷たい箱が、キリキリと低く唸る。 「ほら。開けてみろよ」  真後ろで聞こえる低く低くこもった声。  …そこにいるのは本当に西沢か?  すっと全身が冷たい手で撫でられたように粟立った。  はじかれたように振り向くと、背後の西沢と目が合う。  笑みの貼りついた口元とは裏腹に、その目は黒いガラス玉のように無機質に俺を映していた。  喉元まで出かかった悲鳴を押し殺したけれど、そう見えたのは一瞬で。  気付くと西沢はきょとんとした顔で俺を見ていた。 「あれ。飲まねえの?」 「…いらない」  西沢の横をすり抜けると、俺はテーブルに戻った。缶にわずかに残っていたぬるいビールを流し込むけれど、いやな汗はなかなか引かない。  付けっぱなしのテレビの音も、何事もなかったような西沢の陽気な声も、全く頭に入ってこなかった。  背後の冷蔵庫の中から、嫌な視線がじっとこちらを伺っている気がしてならない。 なんなんだよ。 こいつも。この部屋も。  西沢はなにを見ているというんだろう。想像も、したくない。  どんな理由をつけて帰ろうか、俺はそればかり考えていた。 <終わり>
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加