10人が本棚に入れています
本棚に追加
/22ページ
「ただいま〜!」
「おかえりなさい、遅かったのね。」
母が台所で食器の音を立て、視線だけこっちへむける。
「お母さんさ、亡き王女のためのパヴァーヌっていうクラシック曲知ってる?」
そう言うと、少し驚きながら
「ラヴェルの曲でしょう?でもあんた、いきなりそんなこと聞いてどうしたの?お母さんが買ったクラシックのCDなんかも、興味もなかったじゃないの。」
と問うてきた。
「何となく。綺麗だなと思ってさ。」
と答えると、彼女はため息をついて
「お母さんは何だか切なくなるから苦手だな。ラヴェルはね、晩年、記憶障害の影響で、この曲を聴いて、この美しい曲を書いたのは誰だろう?と聞いたと言われているわ。
自分が作った曲を忘れてしまって、それでもなお、音楽の美しさは分かるだなんて。残酷なことだと思わない?」
彼女の話にはどこかゾワッとさせられたが、音楽を知らない私には、あまりピンとこない話だったんだ。
最初のコメントを投稿しよう!