変奏曲

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「ただいま〜!」 「おかえりなさい、遅かったのね。」 母が台所で食器の音を立て、視線だけこっちへむける。 「お母さんさ、亡き王女のためのパヴァーヌっていうクラシック曲知ってる?」 そう言うと、少し驚きながら 「ラヴェルの曲でしょう?でもあんた、いきなりそんなこと聞いてどうしたの?お母さんが買ったクラシックのCDなんかも、興味もなかったじゃないの。」 と問うてきた。 「何となく。綺麗だなと思ってさ。」 と答えると、彼女はため息をついて 「お母さんは何だか切なくなるから苦手だな。ラヴェルはね、晩年、記憶障害の影響で、この曲を聴いて、この美しい曲を書いたのは誰だろう?と聞いたと言われているわ。 自分が作った曲を忘れてしまって、それでもなお、音楽の美しさは分かるだなんて。残酷なことだと思わない?」 彼女の話にはどこかゾワッとさせられたが、音楽を知らない私には、あまりピンとこない話だったんだ。
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