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放課後の秘密の時間が増えるにつれて、沙耶との距離が離れていくような気がしていた。
目が合うと、沙耶の方から目線を下に逸らしてくる。
すれ違ってもお互い気づかぬふり。
避けているでもない、避けられているでもない。ただ、声をかけたり、目線が交わることはない。
放課後、ほんの少しだけ憂鬱な気持ちで音楽室へと向かうと、いつもの美しい『亡き王女のためのパヴァーヌ』が響いてきた。
研ぎ澄まされた音は、渇いた心を潤してくれる。
彼の近くによると、彼がメモに
『何かあったの?』
と記した。
彼が人をよく見ているのか、はたまた私が顔に出しすぎていたのか。
おそらくその両方だろう。
『つまらない悩み。』
『僕でよければ話くらい聞くよ。』
『友達とのすれ違い。私が悪いんだけど、どうしても言いたくないことがあって。』
『そっか。誰にでもあるよ、話したくないことなんて。話したくないことを無理して話すんじゃなくて、そこを補って、ツギハギだらけでも生きていくのが人間じゃないかな。』
スケールの大きい話になっちゃったね。
最後にそう書いて微笑んだ彼は、何だか、私とは世界の違う人に思えた。
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