嵐のホットココア

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弟殿はとてもよくおモテになる。 落ちぶれたとはいえ昔は二枚目で売り出していた俳優と今も美を保つ一流女優の間に生まれたサラブレッド。 最初に出会った小学生の彼は愛らしい容姿で、まるでお人形のようだった。歳をとるほどカッコいいというよりかは麗しいの方向に容姿は向かっていくが、あんまりまわりがチヤホヤするものだからなのか冒頭のようなワガママお坊ちゃんになってしまった。 「俺のこと好きになるまであきらめないから!!」 「そういうしつこいのムリ」 今まで弟殿がアタックしてきた女子たちに放ってきた言葉を投げつけた。 弟殿は殺虫剤を撒かれて瀕死のハエのように人の部屋の床でもがいている。 図体は一応私よりでかいのだから恐怖しかない光景に一応十字をきっておいた。 床に転がった弟殿が沈黙したので、視界に入らないよう毛布を被せてテレビをつけた。 一応バラエティー番組がやっているが、画面は上部と左側に交通情報などのテロップが流れている。 「……避難する?」 窓を叩く雨音に負けず劣らずのか細い声がでっかいお団子毛布からした。 「一応ここ高台だし、川が氾濫しない限りは大丈夫かな……とりあえず様子見」 風が少し弱くなったかと思ったが、気のせいだったみたいだ。 返事もない沈黙にガタガタと揺れる窓と、テレビの音が響く。 「ここ駅から遠いし、坂だし。コンビニ近くに無いし……街灯も少ないから夜とか危ないじゃん」 「その分家賃は安い」 毛布の中から盛大なため息をつく弟殿。 「もっと気を使えば、そういうところ」 「金があればやってる」 「一人暮らしやめて、家に戻ってくれば?」 「絶対に嫌」 食い気味に返事するとまたため息が聞こえた。 「俺、親父とケンカして家に帰ってないんだよね」 「いつから?」 「一週間前くらいから。友達やバンド仲間の家に泊まらせてもらったりしてたんだけど、もう流石に限界」 母からのメッセージを思い出す。 帰れなくなった、というのは 台風が迫って交通機関が麻痺しているからではなく父親と(たぶんけっこうガチめの)ケンカをしたから戻るに戻れず帰れなくなってるってこと? 「ケンカの理由は?」 「……進路」 毛布から弱々しい声がした。 「俺、音楽がやりたくて。バイトしながらでもバンドやりたいんだ」 「大学進学は?」 「したくないって言ったら親父に殴られた」 ……でしょうね。 こう見えて弟殿、推薦で早々と合格してたし。行きたくないなんて今さら言うと思ってなかったろうし。 しかも進路希望は芸能界に近い音楽業界。 弟殿が小さい頃に親が離婚した原因。 それはまさに今直面している彼の『進路』なのである。 小さい頃から子役として仕事をさせ、将来は俳優にと望んだ女優である彼の母親。 幼い頃からの芸能界入りを望まず、大学までしっかりと出て水物でない安定した職について欲しいと望んだ俳優であり今はタレントのような父親。 「殴るのはいけないとは思うけど、わからなくもないかな……」
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