ひみつのホットミルク

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ひみつのホットミルク

父親は俳優、母親は元アイドルで今は女優。 俺は二人の間に生まれた、ただひとりの子供だった。 順風満帆の一人っ子生活がこのまま続くと思っていた。 五歳の時に両親が離婚するまでは。 この時俺は母についていくことを決めた。 十歳になり母が再婚。 俺には七つ年上の血のつながらない姉ができた。 涼やかな瞳に、年のわりに大人びた凛とした佇まい。 身長は一七〇センチ近くで、女性としては高い部類に入る。 ざっくりと切られたショートカットも相まってハンサムと例えたほうがいいくらいの容姿は、まさにプリンス……女子校に通う王子様で。 晶(あきら)さん。 名前も男みたいだと思った。 ◎ 紙パックの牛乳と蜂蜜が入った袋をキッチンテーブルに置き、 被っていたキャップはベッドの上に放り投げた。 度なしの眼鏡はこの際、そのままでもいいか。 深夜にコンビニに行ってきた。 わざわざ。このためだけに。 流し台で手を洗い、鍋を用意する。 あまり使わないので綺麗なままの二口コンロの片側にセットし、買ってきたばかりの牛乳を注ぐ。 牛乳が温まった頃、カップに注ぎ蜂蜜を加える。 棚から隠し味を取り出して、ふと昔のことを思い出した。 両親が離婚してすぐ、俺は母親の個人事務所で子役として活動を始めた。 俺が芸能活動をすることは母たっての希望だったらしい。 母に似たおかげで愛らしくも美しい容姿を手に入れた俺だったが、あまりうまくいかず。 俺が十歳の頃はほぼ「開店休業」状態だった。 再婚し、一緒に暮らすようになってから晶さんとは二人になることが増えた。 ラブラブしてほったらかしにされていた訳ではない。母も……義父さんもより一層仕事に精を出すようになったのだ。 晶さんの大学進学や俺の今後のこともあって「学費はないよりあったほうがいい」という考えがあったと、成人してから二人に教えてもらったが……それはまた別な話だ。 その夜はベッドに入っても眠れなかった。 翌日にドラマの撮影が急に入ったのだ。 次クールからはじまる子役のオーディションを受けたが、審査員の反応は芳しくなく。 もうダメかと思っていたら別の役で声がかかったのだった。 セリフは少なく、すぐ覚えた。 けれどこういう現場自体久々であまり経験もない俺は、緊張しきっていた。 あまりにも眠れないので、なんとなくトイレに行くことにした。 昔も今もトイレは落ち着く。あの狭さがいいのだろうか。 トイレからの帰り、リビングに明かりがついていた。 母さんが帰ってきたのかと思って覗くと、テレビを見ながら濡れた髪をタオルで拭くパジャマ姿の晶さんがいた。 「眠れない?」 頷く。 「待ってて」 台所に走って行った晶さん。 リビングのソファに腰かけて待っていると、湯気の立つマグカップを片手に戻ってきた。 手に持っていたマグカップの中身は、ホットミルクだった。 「ひみつだよ」 晶さんが棚から取り出したのはお義父さんが大切にしていたブランデーの瓶。 晶さんはほんの数滴、ブランデーをホットミルクに垂らした。
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