夢枕

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「すみません、桐生さん。説明が遅れました。  今日から、桐生さんには特別室に移ってもらいます。それに伴って、担当医がこの碧に変わります。僕の指導医をしていた人なので、腕は保証しておきます」 「はぁ」  確かに、桐生は芸を売る という意味では芸能人だし、多少は顔も知られている。事実、トイレに行く際にもこちらをチラチラ見てくる人間もいるし、大きな騒ぎになる前にそちらに移った方がいいだろう。  そんなことに思考を巡らせていると、碧医師はにこりと笑った。 「そういうことなので、朝食後こちらに時間が取れ次第、移ろうと思います。一応、荷物なんかがあればまとめておいて欲しいのですが、宜しいでしょうか」 「はい」  とりあえず、そう答える以外になかった。  それからもう一つ、聞いておきたいことがある。 「碧先生、妻はどうしていますか?」 「心構えはしておいて下さい、としか言えません」 「そう、ですか」 「では、失礼します」  そう言って一礼すると、彼は去って行った。
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