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人は44ボルトの電圧を心臓に喰らうと死ぬと聞いたことがある。とあるモンスターから10万ボルトの電撃を食らっても平気な少年など漫画やアニメの中の存在だろう。
「お疲れ様です」
鈴の音のような心地良い女性の声で意識を取り戻した。すぐにあたりを確認する。
「PCは? 仕事のデータはどうなったんだ?」
「第一声が仕事の心配なんですね」
女性は苦笑しながら呟いた。観察してみると、明らかに一般的な格好をしていない。フォーマルでもカジュアルでもない、敢えて言うならコスプレイヤーのような格好だ。金髪に碧眼、そして修道服のようなクロークを身に纏った美女は自ら名乗り始めた。
「こんにちわ。私は月の女神のアルテミシアと申します」
電波な発言だと思いつつも、直前の自分の記憶を考えると自分はおそらく死んだと分かる。死後の世界などと言うオカルトは信じていなかったが、まさかこのような出来事に遭遇するとは思ってもみなかった。
「貴方はとても不幸な人生を送り、突発的な死を迎えてしまいました。故に、なにか貴方の願いを叶えて差し上げたいと思うのですが」
「急にそんなこと言われても困る。というか自分以外にもそんな人間は世界中に溢れて零れて蔓延っている」
そもそも死んだ後に願いを叶えてくれると言われてもどうしようもない。せめて死ぬ前に少し親孝行でもしとけばよかったと思う。彼女も欲しかったし、守りたいと思える家族が欲しかった。
「生まれ変わったら美少女と暮らしたい」
「それが貴方の願いですか」
若干の期待に満ちた瞳が覗き込んでくる。少し考えて馬鹿馬鹿しくなる。もう、全て手遅れなのだ。
「いや、むしろ美少女になりたい」
「は?」
意表を突かれた彼女は困惑に顔を歪めた。
「最強の美少女になりたい」
現代社会では美少女は圧倒的に地位が高い。容姿だけで社会の待遇が変わってくるのだ。最強の美少女になれば人生は楽で容易になってくるのだろう。
「でも、本当にそれでいいんですか?」
何故か彼女は涙目で聞き返してくる。
「ああ、それ以上の望みはない。あってたまるものか」
多分、自暴自棄になっていた。過酷溢れ、幸福なき世界に、無慈悲に捨てられたのだ。もう死んだ後の事などどうでもよかったのだ。
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