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土砂降りの雨の中一人の女が走っていた。その腕の中には赤ん坊が抱かれている。頭部には裂傷と擦過傷があり、肩には矢が突き刺さっていた。
辺りは薄暗く、深く繁った木々が行く手を阻んでいる。しかし、だからこそ彼女はこの道を選んだ。追っ手が馬で追尾できず、自然が足止めしてくれるこの場所を。
「ごほっ……」
肺から出血しているのか、吐血を繰り返した。おそらくもう長くは生きられないだろう。体を引き摺るように森の奥に足を進める。そこには一軒の小屋が建っていた。
「おい、あんた……何があったんだ?」
小屋から一人の女が出てくる。その女にすがるように彼女は娘を預けた。
「お願い……エステルを……娘を助けて……」
何があったのかは分からないが、彼女は深手を負っていた。ぱっと見ただけで致命傷だとわかる。女は彼女を治療するため小屋に招き入れようとした。
「あ……」
次の瞬間、彼女の背中に無数の矢が突き刺さった。痙攣し動かなくなる。
「お前ら……」
彼女を殺した兵士と見られる男たちに殺意の眼差しを向ける女。
「人の家の前で殺しなんかしてんじゃねえよ!」
次の瞬間には男たちは一人残らず磔にされていた。
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