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男たちの顔には驚愕と恐怖が色濃く浮かんでいた。自分達の四肢が植物により絡め取られ磔刑にされている。この世界でそんなことができるのは魔術師だけなのだから。そして、名だたる魔術師に女は存在していなかった。
「馬鹿な……なんで女が魔術を使えるんだ!?」
この世界では魔術と呼ばれる技法を女性は行使できないというのが常識である。それを苦もなく使うということは性別が男性ということなのだろうか。
「証明してやるつもりはないが、私はれっきとした女さ。 そうやって女には魔術が使えないっていう概念を植えつけるのが目的で吹聴したんだろうがね」
だが、彼女にはそんなことはどうでもよかったのだ。
「さて、あんたらがなんでこの娘を追いかけ回し、殺したのか。 じっくりと聞かせていただこうか?」
「…………」
次の瞬間、男達は体内から爆発を起こし絶命した。咄嗟に二重に障壁を展開して防いだものの、防ぎきれなかった余波が背中を焼く。
「いってぇー……おい、大丈夫か?」
抱き抱えた赤ん坊を覗き込む。赤ん坊は声も上げずに涙を流していた。目の前で母と思しき人物を殺されたのだ。胸が痛んだが、死者が戻らないことを彼女は知っている。
「ああ、赤ん坊のくせに強いな、お前」
この世界で唯一の、孤独な魔女は数奇な運命の赤ん坊を託され、育てる決意をした。出自も血筋も分からないが、そんなものは関係ない。自分がそうすべきと思ったから、ただそれをするだけである。
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