序章 サラリーマン美少女になる

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かつてこの地には緋色の魔女と呼ばれた女魔術師がいた。 彼女は圧倒的な魔術のセンスを誇り、周囲の畏怖を一身に受けていた。 彼女の名はヘリアンサス。特に攻撃に特化した彼女の魔術式は大国の正規軍隊に匹敵すると言われ、故に彼女は表の世界から姿を消して隠居していた。 「エステル、飯の準備ができたよ」 そんな彼女も今は子育てに忙しい母親となっていた。赤ん坊のエステルを保護してから12年、エステルは大人でもたじろぐ程の美少女と化していた。艶やかな栗色の髪は腰のあたりまで伸び、孔雀石のような色の瞳はどこか蠱惑的な印象をもたらしている。 「なあ、エステル。あんたはそろそろ外の世界を見たいとは思わないのかい?」 ヘリアンサスはエステルの異常なまでの才能に気づいている。魔術の特性を理解して術式を構築する技術の高さに、既にヘリアンサスは追い抜かれていると感じていた。こんな未開の森で終わる器ではないはずだ。 「……ヘリアンサスが何故こんな場所に隠居してるのが答えじゃないの?」 ヘリアンサスはため息をついた。世界を変えようとして、世界に変えられてしまった自分を、娘に見抜かれていたのだ。救った人間がのし上がり、奪い、殺し、弱者を蹂躙した。再びその根を断つと救ったはずの人間から罵倒を受ける。要するに疲れたのだ。
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