序章 サラリーマン美少女になる

7/9
153人が本棚に入れています
本棚に追加
/223ページ
 魔術というものは引き起こす現象を理解していればより強力になる。 例えば炎の魔術なら、この世界の住人はただ熱く物を焼くというイメージしかない。しかしながら、エステルは炎が燃焼という急激な酸化還元反応であることを知っている。必要なものは有機物と熱と酸素。ただそれだけの理解だけで術式の強度は10倍以上違っていた。 なので、あったらいいなを実現する魔術を研究した。気配を察知するためにエコロケーションを利用した魔術を開発し、力のベクトルを変えてジオイド面をずらしたり、温度差を作り出して気流を作ったりした。 もちろん知識は単品でも使用する。発酵食品や調味料などを用いた調理はヘリアンサス曰く食の革命とまで言われ、炊事全般をエステルがまかなっていた。 「なあエステル、なんでおまえはそんなに才能あるんだ?」 「才能なんてありはしないよ。 そして私は人間の努力を否定する才能という言葉がとても嫌いだ」  知識を得る勉強も努力の結果に過ぎない。今まで積み重ねてきた経験が、今のエステルの全てを作り上げているだけに過ぎないのだから。 「そうか、悪かったな。 でも、お前なら私に出来なかったことが全部できるような気がしてね」  ヘリアンサスが何をしたかったのかは分からないが、その途中で彼女の心が折れた事は理解した。それがどのような事なのかは分からないが、エステルはヘリアンサスが自身の意志を継いでくれる事を期待していることを感じた。
/223ページ

最初のコメントを投稿しよう!