序章 サラリーマン美少女になる

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序章 サラリーマン美少女になる

自分以外の気配がない部屋で、ただキーボードを叩く音だけが響いていた。定時退社の時刻は4時間前に過ぎ去っており、残っているのは一部の営業の人間だけだろう。人がいないのをいいことに自分はPCを3台使って作業を行なっていた。部長に頼まれた会議の資料作成と、備品の管理、受注と発注の管理と打ち込みから明細書の作成など。普通なら5人前後でこなす仕事量である。 「誰かいるのか?」 そんな中作業をしていたら訪問者が現れた。運が悪いことにそれはこの会社の社長だった。 「君、何を……やっているんだ?」 1つ目のPCでマクロの作成、受注のメールに対する自動返信と打ち込み、簡易明細の自動作成。2つ目のPCで資料作成の文章の作成と添削。3つ目のPCで資料の作図など。 「すみません、すぐに終わらせますので」 実際にあと10分もあれば終わる予定だった。タイムカードは押してあるし問題はない、はずである。 「いや、これ、全部が部長の仕事だよね?」 実際は全部ではない。部長の仕事の全部と自分の仕事だ。 「え、資料の文章まで君が書いてたの?」 社長は自分に対して言及はせずに部屋を後にした。部屋の外から怒声が響いてくる。どうやら部長に電話をしているようだ。静寂に包まれていたはずの部屋にはいつの間にか窓を叩くような雨音が響いていた。社長の心中を写したかのように雷鳴も轟き始めた。 「あー、雷か……」 そんな事を呟いたのが悪かったのだろうか、運の悪過ぎることに頭上に落ちた雷によって意識を失った。
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