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5.
自分の口から飛び出した言葉とは、思えなかった。
そんなの、言い訳に過ぎないのだけれど。
でも心から、そう思ったのだ。
「あ…………」
「…………」
やってしまった、と口を塞ぐ俺と、凍り付いた表情の、柳之介。
島田も場の温度に凍り付き、ただただ俺たち二人分の表情を見やって、何も言わない。
「その……違うんだ、これは」
最低の出だし。
最初に言うべき言葉は、「ごめんね」でなくてはならなかったはずなのに。どんな理由であろうと、柳之介のことを傷つけた事実は変わらないというのに。
あろうことか俺は、自分の無実の弁明から始めたのだ。
それを聞いた柳之介が、納得するはずなんてなくて。
「…………っ!」
柳之介はただ、怪物から逃げ出すような表情で、俺に絡めていた腕をほどき、川の上流の方へ向かって走って行ってしまった。
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