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1.
「付き合ってください!!」
………………………………。
これが小説だとしたら、ありふれた書き出しだと思う。けど俺みたいな平凡な人間にとっては、人生で一度聞いたか聞いていないかという、嬉しい言葉だ。
もちろん、言葉自体も嬉しいし、その後ろに俺に対する好意や、この一言を告げるための勇気があることを思えば、その感動はいっそう大きくなる。
……大きくなる、のだが。
「……えーと」
佐原賢治、高校三年生。今年で十八歳。
夕方、学校帰り。俺たち以外人のいない、歩道橋にて。
……目の前で頭を深く下げ、右手を勇ましく差し出す人物に、困惑中。
「あの……俺で合ってる? 相手、間違ってない?」
「間違っていません! お兄さんで合ってます!」
「そ、そお」
勇ましい返答に、むしろ俺の方が萎縮してしまう。ま、間違っていないなら、それでいいんだけれど。
そして目の前の人物は、改めて。
「お願いします! ――僕と、付き合ってください!!」
そう、黒いランドセルを背負った少年――小学校中学年くらいの少年が、野球部の挨拶みたいに腹から声を出して、そう告白するのだった。
……どんなだよ!
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