炎天下で

2/6
前へ
/21ページ
次へ
「幽霊とか、見えるの?」 「え?いや、まあ高速道路で男の子歩いてるのとかは見えるけど」 「すごいなぁ、それ見えちゃってるじゃん」 怖いのは見たくないね、と彼はあどけなく笑いながら腕を(さす)った。 ちょっと訳がわからない。柊は暑いのでここで立ち話をするのは嫌だった。 「...で?それがなんなんだよ」 「おれ、幽体離脱してんの」 ほら、触ってみ?と手をさしのべる。その手を掴もうとしたら、空を切った。 (わけわかんねぇ、なんだコイツ) 目の前、確実に触れる距離にいるものに(さわ)れない。物理的な障壁はないのに()れられない。見えているのに、そこには何もないかのようだった。 恐怖なのか、興味なのか、霊体特有の何かでも発しているのか。分からないが柊は少し涼しくなった。 上手く言葉に表せられなかった柊は、そのまま唖然としているのもみっともないとおもい、駅への道を歩きだした。 「あ、ちょっと、もう少し話そうよ」 こういうのに関わったらまた面倒なことになる、ましてや霊体だなんて──と自分の中でアラートが鳴る。きっとここで、何か反論を言えば彼は着いてこないだろう。でも── 「...好きにしろよ」 モゴモゴと変な表情になって、柊は少し足を速めた。話しても良い、と解釈した幽体離脱少年も、嬉しそうに笑いながら足音なくその後に付いて駆けた。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

55人が本棚に入れています
本棚に追加