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「ここ、君の家?」
アパートの一室を指差す、制服を着ている時点で明らかに年下なのに悪びれもなくタメ口で話しかけてくる彼。柊は大きくため息をついた。
「そうだけど。どうせ勝手に入れるんだろ」
「まあね」
得意気な顔をしてアパートの扉に片手を突っ込む。駅近だけど築50年のだいぶ年期の入った彼の城だ。
何故少年がすり抜けられることを知っているかと言うと。柊の家は渋谷から電車で少しのところにあったので、それで電車にのったとき彼はあらゆる所からスカスカと無機質な車体をすり抜けていたからだ。これじゃあ防犯も何もあったもんじゃないなと思った。
「あ、おれ、何にも触れないから何も取れないよ。まあ、盗られて困るものなんて無さそうだけど...」
「うるせえよ」
あまりにも怪訝な顔をしていたのか思っていたことをあてられる。余計な一言に頭を叩こうと手を振り上げたらまた空を切った。
「ほんとにこっちから触ることもできねぇな、殴れなくて困る」
「な、殴んないでくれる?」
あはは~と苦笑いしながらスッとそばを離れた少年は部屋を物色し始めた。
「何もねぇぞ」
「え?いや、エロ本と彼女の痕跡を...」
「どっちもねえわ」
「えっ、エロ本ないはウソでしょ」
音もなく部屋を歩き回って、ベッドの下や洗面所を見に行く。しかし何もないのだからなにも見つから
ない。
洗面所に彼女の化粧品も歯ブラシもないし、ベッドの下にエロ本はない。エロ本は普通に本棚だ。
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