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「なんか、飲めねぇの?」
部屋を物色されているのは気分がよくないが、部屋に来た客人にお茶を出さないのは朝起きて顔を洗わないのと同じくらい居心地が悪い。
「うん、飲めないよ」
「実体には触れられないんだ~」と自分の体を触りながら言う。つまり自分のことだけは触れるということか。
「気にしなくていいよ!喉も乾かないし、お腹もすかないから!」
「ふん、別にお前のためじゃねぇよ」
「じゃあ誰のため?」
「俺のためだよ」
「なにそれ!」
あははっと笑う少年。その声は少し透き通った、綺麗な声をしていた。
「やっぱ楽しい!」
「なにがだよ」
「人と話すの!」
「...そうかよ」
楽しいのレベル低すぎだろ、と柊は思った。お前はどんだけ人としゃべってねーんだよ。どんだけ幽体離脱してんだよ。笑う影にほんの少し垣間見えるどことない虚ろさに、疑問が沸いてでた。
「なんか、見るか?」
顎でくいっとテレビを指す。少年は楽しそうに笑って頷いた。
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