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憧れの人
私、瑞里 千紗都 はミステリアスな女性に憧れています。
その凜としたところとか、小悪魔チックなところとか。とてもカッコ可愛くて魅力的です。
考えたことがすぐに顔に出てしまう人なら誰でも一度は思ったこともあるのではないでしょうか。
ただ、私の場合は顔に出てしまうのではなく、思ったことが周囲の人に伝搬してしまうんです。
感覚を共有してしまう、という方が正しいかもしれません。私のお腹が空けば周りの人もお腹が空くし、眠くなれば一緒にウトウトしてしまいます。
思い出し笑いでもしようものなら、突然爆笑を始める奇妙な集団の出来上がりです。
お前のその体質の方がミステリアスだろ、と周りからは笑われるのですが、私としては至って真剣な悩みなんです。
私がそのような女性像に憧れを持ったのにはある出来事が関係しています。
当時、私はクラスのある男子に恋をしていました。
しかしながら思いが強すぎたらしく、学年の女子という女子が彼に惹かれてしまったのです。
その後私の恋は語るに耐えないほど無残な結末を迎え、思春期の女子の心に深い深い傷跡を残していきました。
そんなことがあって、私は心が漏れていかないよう必死の抵抗を続けているのです。
その日は猛暑日を優に超える酷暑で、昼休み終わりのこの時間、みんなぐったりしています。
「せんせー、クーラー効いてないみたいなんで瑞理さんにアメあげてもいいですかー?」
前の方の席の女子が先生にそう尋ねました。
本来であれば授業中にアメなんて許されないでしょう。しかし、私の体質をよく知っているこの先生は、
「今日は仕方ないね。一個だけだよ」
と言って笑って許してくれるのでした。
私はキャッチしたアメを包みから取り出すと、みんなの期待をひしひしと感じながら口へと運びました。
しばらく舐めていると口にひんやりとした感覚が広がってきました。
実際に気温が下がるわけでは無いのですが、みんなは涼しさを感じられるようで幾分か和らいだ表情をしています。
少し前に虫刺されの薬で試したのですが、強力すぎるみたいでみんな凍えてしまいました。
それ以来、うちのクラスではハッカ味の飴で涼を取っています。
午後のうだるような暑さをハッカのアメで乗り切った放課後、私はその足で町へ向かいました。
相手はいつものコーヒーショップでボーッとしていました。
「ごめんごめん。待った?」
そうなんです。私、ようやく新しい恋を見つけたんです。
彼は違う学校の一年先輩。私の体質のことも知らないので、なぜか感情がシンクロする、と運命を感じてくれているみたいです。
年上ながらに無邪気に喜んでくれるその姿に、私も会うたびに幸せな気持ちになれるのでした。
今日もいつものように手をつなごうとしましたが、なぜか彼は席について険しい顔をしたままです。
小さく頷いて顔を上げたかと思うと、私を見据えてこんなことを言いました。
「あのさ、悪いんだけどもう会えないわ。これで終わりにしよう」
突然の告白に私の頭は真っ白になってしまいました。嫌な汗が私の背を伝うのがよくわかります。
彼は続けます。
「ほんと、本当にごめん。なんでかわからないんだけど、最近はミステリアスな女の人に無性に惹かれるんだ」
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