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甘味な毒(Ⅲ)
数ヶ月もの時間が経った。
明久は担任から授業のサボりを注意されながらも、授業を抜け出す問題児。ナル先輩も問題児なのか分からないけれど明久が空き室に行く時はいつも居る。
きっと同じ問題児なんだろう、と解釈して空き室の床に座り込む明久。その隣にはナル先輩が居る。
とても幸せな時間だ。誰も邪魔されない、うるさい物もない。
するとナル先輩が世間話をひと段落終えた時にこう話を切り出す。
「そろそろ、学校祭の季節か」
遠い目をしながら、真反対の廊下側を見つめている。
「そうなんすか、学校祭って何やるんすか?」
学校祭? 明久には学校祭が何なのか分からなかった。
中学時代は、文化祭と体育祭という行事くらいしかこの季節だと知らないのだ。
「学校祭は文化祭と体育祭が合わさった学校行事だ」
何も知らない無知な明久に対して説明をするナル先輩。
明久は、なるほど、と言いながら右手を曲げて左手を皿代わりにし、右手をポンっと叩いた。
(そういう合体したバージョンだったんだ。去年の学校祭はナル先輩も参加したのだろうか。うーん、イメージが付かない)
「ナル先輩は・・・・・・行くんすか?」
恐る恐るナル先輩の方に顔を向けて、今年の学校祭は出席するのかを聞いてみた。質問に対して数分間だけ間が空いてナル先輩はこう言った。
「んや、今年もサボろうかな」
一切こちらを向く訳でもなく後ろに両手を回し、枕代わりに頭を置いていた。
(『今年も』という事は去年も参加しなかったのか、何かナル先輩っぽいなぁ)
「そっ、そうすか! じゃあ俺も」
明久の想像通りだったナル先輩が無性に嬉しくて、つい声を上げた。
「しっ!」
じゃあ俺も欠席する、と明久が言い切る前にナル先輩によって遮られた。
「足音が聞こえる」
補足として何故、静かにして欲しいのかを教えてくれた。
(足音ってもしかして、教師? 空き室がサボる場所だとバレたのか?)
急に不安が襲い、あたふたと逃げそうとする明久。
でも、そんな明久の慌てようにナル先輩が迅速に対応する。
まずは明久の変な行動でバレたらアウトだから、明久の身体を封じ込める為に抱き締めた。
(え? ナル先輩、何でいきなり・・・・・・距離が近過ぎ!)
明久と云うとナル先輩に抱き寄せられるがままにナル先輩の腕の中に包み込まれた。
廊下の足音よりもナル先輩に抱き締められた事で頭がいっぱいの明久。
「はぁ、通り過ぎたかって、大丈夫か? 顔真っ赤」
ナル先輩は廊下の足音が通り過ぎるまで明久を抱き締めた。何とか外の人間が過ぎ去った事に安堵し、明久の方を見つめる。
大丈夫か? 顔真っ赤と言われた明久は余計に火照り出す。否定しても、顔に表情が出ていて意味がなかった。
たった2人だけの足音の騒ぎは、明久の中で何かが芽生えそうになる。
身体の全部でナル先輩の身体を感じた。力を込められる度に、ナル先輩の鼓動が聞こえてくる度に明久の身体は素直に反応してしまう。
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