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4.家族
仏壇のある座敷で座布団を枕にうとうと眠り込んだ修太郎は縁側からの物音で目が覚めた。
大きな古民家で一人きりでいることが太陽の傾きとともに少し心細く感じた。
縁側の方では相変わらずカタカタ、コツンコツンと音がしている。
庭石の前の定位置にはまだ猫は戻っていない。
一瞬、静かになったかと思うとまたカタカタ、コツンコツンと縁側で聞こえ始める。
修太郎は畳の上に放り出していたメガネを掛け、庭石の猫の秘密と先日妻が天井を見て目配せをした意味がわかった気がした。
確かに庭石の前で眠る猫はこの家の守り神に違いない。
庭師をしていた義理の父は縁側と庭石の前にあえて猫が好む場所を意図的に設けたのだろうと勘付いて、改めて仏壇を振り返った。
縁側では修太郎がビールのつまみに用意していたチーズをねずみがどうにか巣へ持ち出そうとしていた。
義理の父の靴下も、亮太の黄色いブロックもこのねずみが持ち出したに違いない。
妻が学生の頃に亡くなったという義理の父は、きっとこの庭に家族を守る仕掛けをしっかりと作り込んでおいたのだ。
山で冷やされた水をこの庭の地下に流れ込むように配して、庭石の前に井戸のように地下を空洞にして地面を覆っておけばその場所だけ温度の低いスポットが生まれる。
そうやって縁側と庭石の間にひんやりと涼しい空間を作っておけば自然と猫が居座るようになりねずみを退治してくれるという仕掛けを、この家に残していったのだと、同じ父という役割の修太郎には理解できた。
庭師である義理の父が、永きに渡って家を守ろうとした想いを教えられたような気がした。
玄関で扉が開く音とともに亮介たち三人の賑やかな声がした。
家族の楽しげな姿をきっと義理の父も喜んでくれているのだろうと修太郎は改めて仏壇に手を合わせた。
ねずみに荒らされたチーズが残る縁側の奥の庭石に、外出先から戻ってきた猫がいつの間にか丸くなって眠っていた。
緑に囲まれた古民家の上空に今夜もまた夏の大三角形の星々が瞬くのだろう。
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