冷たかった缶コーヒー

好印象？ その部下の俺はなぁ……。

「坂井君、また定時上がり？」

　定時のチャイムが鳴り、俺が帰り支度をしていると、デスクが隣の女性社員久ヶ原明美(くがはらあけみ)が嫌みを言ってきた。まあ、毎度の事だから慣れてるけど。

「残業なんてしなくたって仕事は終わらせるからね。それに、柊さんも残業なんてしなくて良いって言ってるし」

「その柊さんは遅くまで残業してるわよ？　最終退室者の名簿、柊さんの名前ばっかりだし。坂井君がやり残した仕事を残業してやってくれてるんじゃない？」

「そんな事する？　俺は仕事を振られれば納期には終わらせるよ。柊さんが受け持つ理由が分からないね」

　俺はそのまま鞄を持って事務所から出て行った。

　その帰り道、電車に揺られながら考えていた。

　あれだけ仕事が出来る柊さんが遅くまで残業？

　部署での飲み会では必ずと言って良いほど顔を出すらしいし、そんなに切羽詰まっているなら俺に振れば良いだけの話。

　柊さんの考えがいまいち分からない。

　会社の上に行きたいなら、今の時代だと逆効果だと思うんだけどな。別に金に困ってるって訳でもなさそうだし。資格とかの勉強なら家ですればいい、というよりそれは給料泥棒。

　まあ、何にしてもこれだと俺が仕事をしてない奴だって思われるんだよなぁ。

　業績を見れば俺もそこそこ成果は出してるんだけど、傍から見れば柊さんしか仕事をしてないように見えてるはず。

　そして納得できないことは女性社員にキャーキャー言われてることもそうだけど、いい人だって言われてること。

　いや、悪い人ではないよ？　裏表がない人だって事は分かってるけど、散々こき使われると、ね。

　それに仕事をマイペースで早く終わらせるのは良いけど、そうしたら別の人の仕事も受け持ったりするからマジで勘弁してほしい。

　残業なんかまっぴらごめんだし、評価が下がったりしたら面倒。

　でも、柊さんは「経験だと思え。納期には終わらせろ」とか言う。

　まあ、大した量じゃないからちゃちゃっと終わらせて定時には帰らせてはもらうけど。

　周りから見ればいい人かもしれないけど、部下の俺からするとお人好しってだけ。身近な人間からすると少し迷惑なんだよなぁ。

　俺は楽して給料を貰いたいタイプなんで。