出来高? 分かってたさ……。

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出来高? 分かってたさ……。

「最近残業増えたね、坂井君」  終業のチャイムが鳴っても席から離れない俺に久ヶ原が声をかけてきた。 「そりゃあれだけ大口を叩いたんだ。一人でやるって言ったからにはやって見せないとな」  部長に一人でやると言ったその日から俺は残業をして、自分のミスを洗い出していた。  実際、ミスはこれでもかというほどあった。  その修正作業はとても骨が折れるものだった。ホントに小さなミスばかりだったけど、こんな物をクライアントに出したら信用に関わるレベルだ。  同僚がどんどん帰宅していく中で、俺は黙々と見直し作業をしていた。すると、柊さんが缶コーヒーを置いてきた。 「あまり無理はするな。残業はあまりしたことがないから疲れているだろう?」 「柊さんは慣れてますからね。俺に内緒でミスを修正して」 「意固地になるな。俺も手伝う。ミスは自分では気付きにくいんだ」  柊さんが資料に手を伸ばそうとしたため、俺は「やめてもらえます?」と高圧的な声を出した。 「建前で手伝うって言ってるんでしょうけど、自分の手柄にしたいだけって分かってますからね? 俺を急かしていたのも、俺を落とすことで自分の評価を上げようとしてるだけ。利用されるのは嫌いなんで、放っておいてもらえます?」 「それだとお前の評価が落ちるぞ? 俺はお前の仕事のやり方を考えて急かしていたんだ。小さなミスぐらいなら俺が修正すればお前がいくつも仕事をこなせると考えていたんだ。意固地になりすぎると自分の身を滅ぼすぞ」 「ご忠告どうも。だけど、柊さんが関わると俺が霞むんですよ。俺の事を思うなら邪魔をしないでください」  突き放す俺に柊さんは黙ってデスクへと戻っていく。俺は黙って見直し作業を再開した。  これで仕事の出来高は下がるかもしれないけど、柊さんが上に行くためだけの踏み台にはなりたくない。  だけど、単純なミスが多すぎて、本来の仕事に支障が出るほどだった。このままのペースで進めると、間違いなく納期に間に合わない。  でも、最悪部長が修正してくれる。ホントは部長に任せるなんて言語道断だけど、今回ばかりは仕方がない。  俺は残業を続けてなんとか納期までに仕事を終わらせた。  当然ミスは多くて部長から説教を受けたけど、間に合わなかったら話にならない。  なにより、柊さんの手柄になるのだけはごめんだ。
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