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それからしばらく歩いた、すると前から一人の老人が歩いてきた。服装からして旅の僧であろう。
その僧とすれ違いざま、僧は千丸の運ぶ木箱に目を運び、細目で睨みつけている。
こいつも卑しい人間か、と思いながら通り過ぎると僧は立ち止まり、千丸に話しかけてきた。
「そこの運び屋、何を運んでおる?」
「氷さ」
そう一言だけ告げ、その足を緩めることなく進んだ。
しかし僧は納得のいかない様子で睨み続け、踵を返すと千丸に付いてきた。
「そなた、その木箱、中を見せておくれ」
「だめだ、これは朝廷へお運びする大変貴重な品である故、このようなところで日に浴びせる訳にはいかぬ」
千丸が木箱の中身を見せるわけもなく、決して歩みを止めない。すると僧は諦めたのか歩みを止め、最後にと一言声をかける。
「災いが臭う。あぁ、悲運の運び屋に、御仏のご加護があらんことを・・・」
言っている意味が分からず、その僧とは徐々に離れていった。追ってくる様子もなく、変に安堵した千丸は、気が付けばもうすぐ月明かりが大地を照らす。
一日一日、こうも奇人と出会っては気苦労耐えず氷が解けてしまいそうだ。
今歩いている場所は民家も近いため、人に出会わなくてすむように、もうしばらく夜道を歩くことにした。すると・・・。
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